しかし、ネトウヨや伊藤氏、田端氏の主張が問題なのは、それが「無知による間違い」というだけではない。タレントの松尾貴史氏は、「国=政権」と捉える危険性を指摘するツイートを投稿した。
〈芸術家に対する補助金とは「政権の都合の良い態度を取るものにのみ支給されるべきだ」という、歪んだ奇妙な考えの市議が、それを隠しもせず自ら拡散する臆面の無さ。安倍氏や林氏のポケットマネーと勘違いしているのか。国民が納めた税金だよ。この人の給料も、市役所ではなく市民が出してやっている〉
さらに、映画作家の想田和弘監督は、伊藤議員のような考えは「全体主義」だと批判した。
〈ちなみに、政権批判をする人間は政府から助成金を受け取るべきではないという考え方が愚劣かつ全体主義的であることは言うまでもない。政府=公共とは右から左まであらゆる考えや思想に包摂的であるべきで、右だろうが左だろうが基準を満たしメリットがあるなら当然助成金を得られるべき〉
もっと強烈だったのは、映画評論家の町山智浩氏だ。町山氏は〈政府の助成金受けたら政府を批判すべきじゃないという人はソ連に行ったほうがいいですよ〉と、一刀両断にしたのだ。
しかし、これは町山氏の言う通りだろう。民主主義の国で行われている文化事業への助成はむしろ、表現や芸術、学問の自由を保護するためのものであって、助成金を受け取ったからといって、国に表現が支配されるということではまったくない。金をやるから、政府の言う通りつくれ、ということがまかりとおれば、それは、まさにソ連やナチスドイツ、戦前戦中の日本における国策映画とかわらなくなってしまう。
ようするに、伊藤氏や田端氏はこの文化助成とプロパガンダの違いがまったくわかっていないのだ。いや、わかっていないどころか、文化的活動に検閲が加えられ、映画や音楽が政府の宣伝装置になることは当たり前だと考えているフシさえある。