2つ目の事件に言及したい。これは、31歳の男性が、出向という出来事の後の過重労働によって、心身の不調をきたし自死してしまった事案である。
この男性は、2004年に大学を卒業し、その後、アウトソーシング事業を営む会社の正社員となった。男性は、以降、コールセンター(保険会社のお客様センター)管理、新設、立ち上げなどの業務に従事してきた。
ところが、2011年10月、会社は男性に対して、関連会社への異動(出向)を命じた。
関連会社は、チョコレートの製造販売会社であり、複数の百貨店等でチョコレートを販売する会社であった。男性は、このチョコレート販売会社で、在庫管理、店舗管理、店舗のアルバイト人材の管理など、これまでとはまったく違った業務を担当することとなった。
しかし、この会社は設立後1年しか経っていない会社で、もろもろのシステム等が未整備の会社であった。在庫管理システムもまだ完成しておらず、倉庫会社のミスなども重なり、トラブルが続いた。男性の残業時間はどんどん増えていった。また、男性は、社長ら上司から厳しい叱責を重ねて受けるようになった。
労基署が認定した「残業時間」は以下のとおりである。
【労基署認定時間外労働時間】
直前6か月(6月~) 40:00
直前5か月(7月~) 1:00
直前4か月(8月~) 11:30
直前3か月(9月~) 46:38
直前2か月(10月~)106:30
直前1か月(11月~)170:05
10月まではそれほど「残業時間」がなかったが、出向があった10月以降は、月106時間、月170時間と異常な長時間残業が認定されている。
男性は、12月28日に会社の非常階段で自死してしまった。
このケースは、出向という出来事があった後に長時間労働があり、また、パワハラ的言動も存したとして労災と認定された。このケースは、体力のある若者であっても、出向という出来事に長時間労働などが重なれば、わずか3か月後程度で、自死まで至ってしまうという痛ましい事件であった。
電通の高橋まつりさんの事件も、10月に本採用による業務量増加という出来事があり、その3か月後の12月末に自死に至ったのであり、このケースとほとんど同様の経過をたどっている。