あるところに、幼稚園と小学校を運営する学校法人があった。そこで働く2人が、今回の当事者である。
1人は幼稚園の園長のAさん。そして、もう1人は事務局の事務長のBさん。Aさんは、園長さんの業務と並行して、幼稚園児の保育に携わる日々。Bさんは、少し前から、幼稚園や小学校の事務長さんとして働くようになり、幼稚園児を暖かく見守りながらお仕事に励んでいた。
すると、ある日、2人は、こんな趣旨のことを言われる。
「Aさん、あなたはもう高齢だから、幼稚園の園長さんは任せられない。あなたには定年ということで、今日、退職してもらうことが理事会で決まりました」
「Bさん、あなたは試用期間中だったんだけれど、本採用しないことになりました。あなたは、不採用ということで、Aさんと同じく退職してもらうことが理事会で決まりました」
そう。2人は、いきなりクビにされてしまったのである。2人は、突然のことに驚いたが、ちゃんとした説明もなくいきなりクビにされて納得することができず、弁護士に相談することにした。
これが本件のあらましである。
相談を受けて話を聞いたところ、あらましにあるように、Aさんについては「定年退職」、Bさんについては「試用期間中の採用拒否」ということで退職させていたことがわかった。そのうえで、就業規則を精査すると、この学校法人における通常の教職員の定年は、60歳(65歳までの継続雇用制度あり)とされているが、園長の定年については、特別な管理職であることを考慮して、通常の教職員の定年の規定は適用せず、「理事長が決定した日を定年とすることができる」と定めていることもわかった。
今回のAさんの場合、学校法人が、一方的に、定年日を当日と設定して、その日のうちに退職させたということになるので、定年退職を装った即日解雇であると整理することにした。また、試用期間の定めについて、この学校法人の就業規則をみると、出勤開始の日から6カ月間が試用期間とされていたが、Bさんは、働き始めてから6カ月はとっくに過ぎていた。そこで、Bさんについては、単純な即日解雇であると考えることとした。2人とも強く復職を希望していたため、解雇無効の判決を勝ち取るべく、速やかに訴訟を提起することにした。
お気づきであろうか。ここまでの話のなかで、何かが足りないことに。ちなみに足りないのは、面白味ではない。もし、そう思われていたとしても、それは私の力ではいかんともし難い。豊かな想像力で補ってほしい。
足りないもの、それは、2人を解雇した理由である。