ブラック企業は、精神的に疲弊した労働者の一縷の希望をいとも簡単に奪い去る。パワハラを受けて精神を病んだ労働者が、一縷の希望をもとにブラック企業を信頼して職場復帰したが、非情にもその希望は無残にも打ち砕かれ、再び精神を患ってしまった悲惨な事件を紹介する。
クライアントは40代前半の男性で、運送会社に勤務していた。クライアントは10年間、問題なく真面目に勤務してきたが、営業所長が交代してから受難の日々が始まった。クライアントは、新しく赴任してきた営業所長から、「アホ」「バカ」「ハゲ」「あたまおかしいんちゃうか」「わしが金沢にいる限り昇進はないと思っとけ。評価も低いからな」「給料どろぼう」「みんな、お前いらん言うてるぞ」といった人格を否定するような暴言をあびせられるようになったのである。
クライアントは、営業所長からの耐え難いパワハラを受け、ついに体調を崩してしまった。クライアントは、精神科へ通院したところ、適応障害と診断され、主治医から会社を休むようにアドバイスを受けて、約2カ月間休職することとなった。
休職期間中、クライアントは、相手方会社本部の担当者と面談したところ、パワハラの事実を認めて謝罪してくれたので、職場に復帰すべきかについて悩んでいた。そして、私のもとへパワハラの相談にいらっしゃった。私はクライアントと共に精神科の主治医と面談し、意見を求めたところ、主治医は職場へ復帰することに反対した。私も、パワハラをし続けた営業所長がいる職場へ復帰するのはやめるべきだとアドバイスした。
しかし、クライアントは、年齢的に新しい就職先を探すのは困難であること、家族を養っていかなければならないこと、本部の担当者から、職場を戻りやすい環境にすると言われたことから、やむなく、パワハラをし続けた営業所長がいる職場へ復帰することにした。