Aさんは100年以上の歴史ある財閥系企業のシステム部門を独立させた子会社に長年勤務していたが、いろいろ考えるところあり、退職することにした。
そうしたところ、会社の人事から、辞めるなら金を返せと繰り返し言われるようになった。Aさんの会社では、賃貸住宅に居住している人に住宅手当が支給されているのであるが、家を買った社員にも購入後3年間限定で住宅手当が支給されていた。それを返せというのである。
給料の一部としてもらったものを返さなきゃいけないなんて、無茶苦茶だとAさんは思ったのだが、会社の主張する就業規則を確認すると、確かに受給後一定期間内に退職すると持ち家の社員への住宅手当は返還しなければならないと記載されていた。
Aさんは、退職したら給料の一部を返さなければならないなんて無茶苦茶だと、拒んでいた。退職の日が過ぎ、何度か返還するようにとの書面も来ていたのだが、無視していた。しかし、退職して1カ月ほどしたのちに、簡易裁判所から訴状が届いてしまった。
驚いたAさんはネットなどで見つけた複数の弁護士に相談したが、どの弁護士も就業規則に書かれているから支払う必要があるのではないかとの助言であったという。Aさんは自分の考えに自信を無くしかけていたが、最後の望みをということで、私も所属している労働事件の電話相談をしている弁護士の団体(労働弁護団東京支部)に電話して、たまたま電話を取ったのが私だった。