これは結婚だけに限った問題ではない。AV女優引退後の再就職に関しても、内なるスティグマとの葛藤や、偏見および差別の問題は、“第二の人生”をスタートさせるのにあたって高い壁となって立ちはだかる。
AV女優のセカンドキャリアに関する問題はしばしば取り沙汰されるが、最近でも、現役の人気AV女優である紗倉まなが「週刊プレイボーイ」(集英社)17年12月18日号の連載コラムのなかで、AV引退後の人生についてこんな不安を書いていた。
〈AV女優のセカンドキャリアというのはとても大切だ。(中略)一度引退して本名に戻ったとき、自分には何ができるのか、どうやって生きていくのかというのを必ず考えることになるわけで、そして私のように社会人としての経験が一度もなく、AV業界にどっぷりつかって、ある程度名を知られてしまった女のコたちとなればなおさらだ。たとえ就活したとしても、どこの会社が自分を採用してくれるのだろうかなど、不安だってたくさんあるだろう。(中略)エロ屋ではなくなった瞬間、切腹して終えてしまうのではないかと思うくらいに、なかなか想像できない〉
紗倉まなといえば、デビュー当時から親にAVの仕事を明かしていると公言している稀有な女優であり、また、現在では小説家として『最低。』『凹凸』(いずれもKADOKAWA)を上梓するなど、AV女優の枠を超えた活動をしている人だ。
紗倉は、フォトブック『MANA』(サイゾー)のなかで〈「AV出演=人生崩壊」というイメージを払拭できたら。偏見という厚い鉄製の壁を壊す作業を、今はアイスピックくらいの小さい工具でほじくっているような気持ちです。(中略)「もしかしたら、何かの拍子にツンとつついたら壊れるかもしれない」と希望を抱けるのも、ある意味で“グレーな領域の仕事”だからこその醍醐味なのかもしれません〉と主張するなど、AV女優としての自分の仕事に誇りをもち、そして、アダルト業界に対して世間が押し付ける偏見を少しでも減らせるよう仕事をしてきた。
そんな紗倉でさえ〈エロ屋ではなくなった瞬間、切腹して終えてしまうのではないかと思う〉と、半ば諦めにも似た赤裸々な不安を述べるのは少し意外な感がある。
しかし、残念なことに、現在の日本社会では、このような不安を抱くのは至極当然のことなのかもしれない。AV女優として仕事をしたことがあるというだけで職に就くことを阻まれるという例が現実に起きているからだ。