まさしくその通りだが、ハガキを送ってきた読者のような意見は人口に膾炙してしまっているものである。
その背景には、かつていじめを受けていた過去をもつ者が、「自分が強くなることでいじめを克服した」や「勇気を出してやり返してやったらそれ以降はいじめられなくなった」といった成功体験を流布することで強化されている構図もあるだろう。
そのような成功体験を語る人のひとりが、ロンドンブーツ1号2号の田村淳だ。彼は自著『35点男の立ち回り術』(日経BP社)のなかで小学校のときに受けたいじめ体験を語っている。
彼が生まれ育ったのは、下関の彦島という小さな島。地元の小学校に入り、勉強も運動も頑張る活発な子どもだった彼だが、小学校2年生のときからいじめを受けるようになる。黒板消しで叩かれたり、身体をチョークの粉まみれにされたり、机の引き出しのなかにカビが生えたパンを入れられたりといった、苛酷ないじめが半年間も続いたそうだ。
誰も助けてくれる様子のない状況下、彼は「まず、自分から行動しないと、終わらないだろう」と思い至る。そこで彼の頭をよぎったのは、当時の大スター、ジャッキー・チェンだった。スクリーンのなかでのジャッキーの活躍に勇気をもらった彼は驚きの行動に出る。
〈まず、近くのホームセンターに行きました。そこで丸い木の棒を2本、そして、チェーンとネジ止めを買いました。家へ帰ってきて、カンナで削ったり、2本の棒を短く切って、2本をチェーンでネジ止めして、見よう見まねで「ヌンチャク」を作ったんです。翌朝、学校に行き、ボクは行動を起こしました。教室に入ると、いきなり、みんなによく見えるように、この手製ヌンチャクを振り回し、大声をあげて暴れまくったのです。気持ちはすっかりジャッキーでした〉
〈そしてボクは、彼らのほうに向い、特にボクをいじめていた憎いヤツの顔を、その手製ヌンチャクで叩きました。もう学校中が大騒ぎです。先生からこっぴどく叱られましたし、そのヌンチャクも没収されました〉
この日を境に生活は一変。いじめはなくなり、これまで話さなかったクラスメートも話しかけてくるようになったという。
ロンブー淳は彼自身の体験をいじめ問題解決の道筋として示しているわけではないが、それにしても彼のような成功体験を聞くと、いじめられている側の意志の力でいじめ問題を解決できると勘違いしてしまう人が出てくるのは当然の道理だ。
こうした「いじめられる側にも原因」論はロンブー淳に限ったことではなく、芸能界でもたとえばSEKAI NO OWARIのFukaseなどもそうした発言をしている。
しかし、それは間違っている。いじめの問題に関していじめられている側には何の原因も責任もないし、ましてや、マツコにハガキを送ってきた読者のような「いじめから脱したければ強くなれ」などとする意見は愚の骨頂である。