同書のなかでは、就職した先でヤクザの過去をあげつらったイジメや嫌がらせに遭い、離職せざるを得なかったケースも多数紹介されている。
社会が、更正した人々を受け入れるどころか、積極的に排除している現状。その不寛容さは「暴力団離脱者の地下化」というかたちで、市民社会にしっぺ返しを食らわせるだろう。廣末氏は『ヤクザと介護』のなかでこのように呼びかける。
〈暴力団離脱における官、民、地域社会の三位一体となった社会復帰支援実現のためには、まず、我々が無知、無関心という態度を改め、更正し、社会復帰を希求する離脱者を新たな隣人として受け入れるための意識改革が何よりも求められているのです。
換言すると、社会に馴染めない者や犯罪経験者、清く正しく生きられない人たちを受け入れて来た「暴力団というセーフティネット(受け皿)」が、国の政策によって機能不全になっている現在、日本の社会全体が、新たなセーフティネットとして機能しなくてはなりません〉
ひょっとすると、これは、暴力団離脱者だけに関わる問題ではないのかもしれない。出自をもとにした差別など、現在の日本社会はとかく排他性が高まっている。多様な価値観を受け入れず、枠から外れた人間は排除しようとする息苦しい社会はその歪みを別なところで表す。暴力団離脱者の問題も、他人事として突き放すのではなく、この社会に生きる人みなが考えるべき問題である。
(新田 樹)
最終更新:2017.10.24 11:00