しかし、このような事件があったのにも関わらず、運営は握手会を強行。翌25日の握手会も、平手を含めた数名の欠席を認めたものの握手会自体は中止せず、多くの批判が寄せられた。しかし、その後も握手会の開催そのものを考え直すような行動はとっていない。また、秋元康氏からこの件に関するコメントは特に出されていない。
こういった、運営、ファン、メディアなどから猛烈な勢いで迫り来るプレッシャーに押し潰され、途中離脱を余儀なくされたメンバーは平手だけではない。同じく欅坂46のメンバーである今泉佑唯は今年4月から活動を休止し、8月29日の全国ツアー幕張メッセ公演でグループ復帰している。
彼女の休業理由について具体的な病名などは明らかにされていないが、休業発表直後の4月13日に更新されたブログには、〈数ヶ月前から体調が優れないことがあり〉〈心身のバランスがうまくとれない日が続いていました〉といった文言があり、活動を通して精神的になんらかの問題を抱えたのではと推察されている。
「blt glaph. vol.22」(東京ニュース通信社)に掲載された休業明け初インタビューでは、休業にいたるまでの過程についてこのように語っている。ここから読みとれることは、もっと早い段階から何らかのケアを施していれば4カ月もの長期間離脱することはなかったかもしれないということである。
「それまでにも何度か『ちょっとお休みしたいです』って言ったことがあったんですけど、タイミング的に難しかったこともあって、もう少しがんばってみようと続けてきたんですね。でも、ライブ3日前にスタッフさんに言ったときは、何かもう必死だったというか……。『助けてください』みたいな感じで。それで、ライブ後にお休みすることは決まったんです」
過度な精神的負荷の果てに過呼吸のような症状に陥ってしまうのは起こりうる身体反応であり、それを強者が簡単に「あざとい」と喝破してしまうのはいささか間違っているだろう。
前述した通り、アイドルブームのバブルが完全に弾けた現状では、ブームの影響でプレイヤーの数が増えたのと反比例するように、生き残るためのイスの数は減少し続けており、右肩上がりだったかつて以上に確実に競争は厳しくなっている。そのなかで生き残るため、肉体的にも精神的にも、多少の無理をしてでも仕事をこなそうとすることは恒常的にあるだろうし、その結果として心身に異常をきたすほどのストレスや負荷を抱え込むことは少なくないはずだ。過呼吸を揶揄する前に、そのことは認識しておく必要があるだろう。
(新田 樹)
最終更新:2017.09.15 01:08