指原莉乃が揶揄する通り過呼吸はアピールかもしれないが、それだけが原因ではない
指原や小嶋がこのように過呼吸に対し皮肉めいた発言をする背景には、いわゆる「病み」アピールをアイドルとしての自身のブランディングに使う同業者が多くいるという背景があるのだろう。
その成功例がAKB48の佐々木優佳里だ。彼女はSNSアプリ755で「可愛くなりたい可愛くなりたい可愛くなりたい」「めんどくさいのはじぶんでわかってます。すぐ不安な気持ちになる」といった言葉を連続で投下。また、誕生日に「おばあちゃんになっていくねー」と冗談でコメントしてきた同じグループのメンバーに対し、ジョークを真に受けて激怒。そのあまりにもネガティブなキャラクターがウケ、『有吉AKB共和国』(TBS)では彼女の特集も組まれた。
面倒くさいながらも、そのキャラクターを愛するファンは信者化し、「ハピネス教」(「ハピネス」はネガティブな自分を奮い立たせるために使う彼女の口癖)と呼ばれている。そのファンベースは強固で、14年の選抜総選挙で47位に選ばれて以降、毎年50位以内をキープ。今年の総選挙でも43位にランクインしている。若手メンバーが多く台頭するなかでも決して順位を落とさないのは、そういったキャラクターが、ファンの「支えたい」という思いを喚起しているからだろう。
そういったブランディングをしているのは彼女だけではないし、また、それは個人個人のタレントとしての戦略であって悪いことでもなんでもない。
ただ、それがある種の「あざとさ」を感じさせるということも、またひとつの事実だ。だから、指原と小嶋は、その象徴としての過呼吸を皮肉ったのだろう。
しかし、この過呼吸は単に「ブランディング」と言い切ってしまっていいという問題でもない。アイドルグループのメンバーたちが過酷な競争にさらされ、過大なストレスを抱えていることも事実だからだ。なかでもAKB48をはじめとする48グループは、総選挙はもちろんのこと、握手会の人気、選抜メンバーに選ばれるか否かやポジション争いといったグループ内部での序列が常に可視化され、日常的に競争にさらされ続けている。しかもそこで競われているのはたとえば「スキル」のような客観的な基準でなく、「人気」や「キャラ」という曖昧かつ自らの実存に直結しやすいもの。こうした過剰な競争にさらされながら、さらに運営から過大なプレッシャーや過密スケジュールを課されれば、心身ともに疲弊し、ときに過呼吸などの症状に襲われることはあり得る話だ。
競争にさらされてきたのは指原やこじはるも同じだと思う人もいるかもしれないが、忘れてはいけないのは、彼女たちはAKB48グループ内において、競争を生き残った勝者だということだ。生き残った者の体験談が、すべてのメンバーに当てはまるわけではない(だいたい、指原だって初期は「ヘタレ」を売りにしていたではないか)。
しかも、二人がグループ内で確固たる立場を築いた時期とは違い、現在はグループの総人数が激増しているうえ、アイドルブームの終焉によりグループ自体の勢いはかつてほどではないため、結果としてのグループ内部での競争はより苛烈なものになっている。メンバーたちの心的負荷もますます大きなものになっているだろう。
たとえば、それはいま最も勢いがあるといわれている欅坂46にしても同じである。
8月2日の神戸ワールド記念公演を皮切りに、同月30日の幕張メッセ公演まで全国6カ所をまわる全国アリーナツアー「真っ白なものは汚したくなる」にて、センターの平手友梨奈が相次いで公演途中での退場や、公演自体を欠席するといった状況に追い込まれ話題となったのは記憶に新しい。この夏の欅坂46は、この全国アリーナツアーに加え、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017、SUMMER SONIC 2017、TOKYO IDOL FESTIVAL 2017といった各種フェスにも出演しており、そういった過密スケジュールに無理をして合わせたことが原因のひとつなのではないかと言われている。
また、ご存知の通り、6月24日には、幕張メッセで行われていた握手会の最中にファンの男から発煙筒を投げつけられるという事件も起きた。このとき、イベントスタッフに取り押さえられた男はナイフを所持していたため銃刀法違反で現行犯逮捕。犯人の男は具体的な名前を出したうえで「思い描くイメージが崩れていくのが許せなかった。イメージを守りたくて刺して殺そうと思った」と供述。明確な殺意をほのめかしており、状況が状況なら最悪の事態に発展していた可能性もあった。