その結果、ご飯もまともに喉を通らないような状況になってしまったわけだが、そういった時期につらかったのが、体調の悪そうな彼を励まそうとする周囲の人々の善意だったという。
「「どうしたの? ユースケさん! 美味い寿司屋あるから行こうよ!」って、とにかく俺を元気づけたいから。「気分悪いから寿司なんて一番食えないんだよ」って話なんだけど、でもそれ言うと向こうが「あぁ……そう」みたいな感じで二度と連絡ないですから。「せっかく人が元気づけようとしてやってるのに断りやがった」「後輩のくせに」とか思われちゃう。俺は飯が食えないし、人と会ったりするテンションじゃないんだよ、動けないんだもん」
そんな状況のユースケが立ち直ることができたのは、発想を転換させたのがきっかけだった。
「いつの間にか、体調が悪いことに疲れてくるんですよ。で、もうどうでもいいか、みたいな。体調悪かったら悪いって言おう。そこで帰らせてもらおうぐらいの感じで現場に行くようになって、いつの間にか楽になってたのかな? いまはそういう状態ではないって言えるようになりました」
良い意味での開き直り。それがだんだんと彼の心を救ってくれた。その結果、いまでは折りに触れてつらかった時期のことを話すようになっているが、そういった機会をつくることができなかったのは失敗だったと振り返る。
「それが長引いた原因だと思う。そういうことを話しちゃいけない、みたいな。俺はこういう話すきなんだけど、(中略)でも「ちょっとその話なしで」みたいな。番組的にね」
「当時はCMっていうのもデカかったですね。特に俺の場合、パブリックイメージとかもあって、鬱じゃないけど、鬱みたいな感じで書かれちゃうとイメージ的にも変に思われちゃう」
無理をしないで、なるべく楽に生きる──。言うは易しでなかなか実行に移すことは難しいが、しかし、精神的な健康を保ちながら生きるのはこれが一番なのかもしれない。
漫画家・田中圭一によるエッセイ漫画『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(KADOKAWA)が話題を集めたのは記憶に新しいが、そのなかに登場する大槻ケンヂもまた、現代人がどうしても心にかけてしまう「無理」な負荷との付き合い方を学んで病を乗り越えたひとりだ。