行政が「日本から入れ墨を彫る文化などなくなっても構わない」とでも言わんばかりの規制を押し通す背景には、日本の入れ墨の文化が暴力団のイメージと結びついており、強い偏見に晒されてきたという状況がある。
最近でこそ、ロック、ヒップヒップなどの音楽や、スポーツ文化からの影響でファッション感覚のタトゥーが若者を中心に広く受け入れられるようにはなった。身体に和彫りを入れている外国人観光客が道行く姿を見るのも珍しい風景ではなくなって久しく、日本の彫師の技術に惚れ込んだ観光客が来日時に入れ墨を入れる構図もある。最近でもレディー・ガガが大阪のタトゥースタジオで入れ墨を入れた話はニュースになった。
しかし、そういった状況があると同時に、入れ墨というと反社会勢力のイメージが強くあり、その印象は日本社会に強く残っている。
前出の菊地成孔氏は、昨年生まれて初めてタトゥーを入れた。左腕にヒンドゥー教の神様の絵を入れたのだが、その際にファンの一部からは強い反対の声が寄せられたという。また、本当は和彫りを入れようとしたが、妻から「ヤクザだと思われる」との反対を受け、和彫りを入れるのは断念している。そのような入れ墨にまつわる世間の偏見について、前掲「withnews」のなかで菊地氏はこのように語る。
「実際に嫌な目に遭ったわけではなくても、とにかくタトゥーは嫌だという人もいるでしょう。差別心ってそういうものですから。
それに刺青には、暴力団や任侠の文化と深く結びついてきた歴史があります。覚悟と根性を持って、消えない永遠性を背負う。そんなタトゥーの属性が、任侠の人たちに利用されてきた側面は否めません」
しかし、反社会勢力と関連したイメージが強い文化だからといって、「彫師には医師免許が必要」なんて乱暴な規制を押し通すのは、それこそ「差別心」であり、公権力による「力を示すための示威行為」に他ならないだろう。
とはいえ、すべてが野放しでいいのかといえば、それもまた違う。前掲「withnews」のなかで菊地成孔氏はこのように提案する。
「タトゥーに関しても、多少の規制はあってもいいと思っています。なかには不潔な環境でやっているお店もあると聞きますし。機材があれば誰でもできるということではなく、酒造メーカーや外食産業のように、専用の免許をつくったらいいのではないでしょうか」