さらに「高度専門職」の範囲や年収要件は、国会の議決が不要な省令で決定されるため、法案が一旦成立してしまえば、その要件が下がっていくであろうことは容易に想像できる。
年収400万円以上の労働者に、残業代も支払わず24時間働かせる──。ようするに、これこそがこの法案の本質なのだ。そして、その背後にはもちろん、財界の意向がある。
〈企業にとっていま何が問題かといえば、成果で評価する賃金制度をつくったとしても、現在の労働基準法のもとでは労働時間規制条項から逃れることはできないということです。労働時間を把握して健康管理に責任をもち、1日8時間を超えて働かせるために労使の協定(サブロク協定)を結んで労働基準監督署に届け出て、そして残業したら割増賃金を払わなければなりません。企業にとっては、わずらわしくてたまらないわけです〉
そこで、財界は安倍政権下の産業競争力会議で、議員をつとめる長谷川閑史経済同友会代表幹事(武田薬品工業社長)と榊原定征経団連会長(当時は東レ会長)、2つの経済団体トップが、残業代ゼロ法案をはたらきかけ始めた。
安倍政権はこうした財界の強い要望を受け、それを実現するため「働き方改革」「一億総活躍」などという耳障りキャッチフレーズをひねり出し、前述の有識者会議「働き方改革実現会議」を設立し、法案づくりにと歩みはじめた。
実際、同会議のメンバーを見ても、先の榊原経団連会長を筆頭に、りそなホールディングス人材サービス、イトーヨーカ堂、日本総研理事長、全国中小企業団体中央会会長、日本商工会議所会頭など、財界の幹部ばかりがずらりと顔を揃えている。
安倍首相は今月13日行われた第1回「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」で電通女性社員の過労自殺についてこう発言している。
「先般、電通の社員の方の過労死では、働き過ぎによって、貴い命を落とされたわけでございます。こうしたことは二度と起こってはならない、このように思っているわけでありますが、働く人の立場に立った働き方改革をしっかりと進めていきたいと、こう思います」
こうした詐欺師のような安倍首相の発言に決して騙されてはいけない。その行き着く先は、労働者が残業代ゼロという奴隷労働に駆り立てられ、過労死が続発する世界なのだから。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 07:37