また、現行の労働基準法は、長時間労働を規制し、企業が休日を確保することを義務付けている。これに違反した経営者には罰則規定もある。しかし、その罰則規定も今回の法案ではなくなっている。
〈労働者は、長時間労働から自分の身を守るよりどころを失ってしまいます。一方、経営者は、労働時間を管理する責任がなくなります。労働者が働きすぎて体をこわして働けなくなったり、「過労死」することがあっても、労働者の自己管理が悪かった、自己責任だと言い抜けることができるようになってしまいます〉
本書では改正法案を「過労死促進法案」と断じているが、その通りだろう。
もっとも、この改正法案は、「年収1075万円」「高度専門職」という条件がついているため、多くの国民は高収入の労働者だけの問題で、自分たちは関係ないと思うかもしれない。
だが、そこにも罠がある。もし今回の法案が通れば、それを突破口として将来、中堅サラリーマンや低賃金の労働者にも対象を押し広げていく可能性がきわめて高いのだ。
実際、労働者派遣法の場合、1986年の施行当初は、派遣可能業務が13に制限されたが、たった3カ月後に16業務に、そして96年には26業務に拡大、ついに現在では業務の分類さえなくなった。
そして今回の法案に関してもすでにその動きは現実化している、と同書はいう。
〈安倍首相は、(年収規定を)下げる可能性を否定していません。2014年6月16日衆議院決算行政監視委員会で民主党の山井和則議員が「5年後も10年後も1000万円から下がらないということでよろしいですか」と質問したことに、次のように答えています。
「経済というのは生き物ですから、将来の全体の賃金水準、そして物価水準というのは、これはなかなかわからないわけですよ。
そこで例えば年金においても、安定的な制度とするために、年金額も物価が下がっていけば、物価スライドでこれは下がっていくじゃないですか」(略)
導入するときはきびしい要件をつけて法律を通し、その後、要件が簡単に見直されて悪くなり、国民に大被害をもたらしている例はいっぱいあります〉
また「残業ゼロ」法案導入に積極的かつ重要な役割を果たした経団連の榊原 定征会長は「制度が適用される範囲をできるだけ広げてほしい。年収要件を緩和して、対象職種も広げていけない」と語り、経団連としてもすでに10年以上前の05年から「年収400万円以上」という適用範囲を要求しているほどだ。