そもそも、こいつらは本当に水原の釈明動画を見たのだろうか。彼女は中国に尻尾をふったわけでも、許してと懇願したわけでもない。中国の顔色を伺って靖国に行ったことを隠したわけでもない。
「まず第一に、私は世界平和を支持し、戦争に断固反対するものです」
水原はこう語ってから、彼女が靖国神社に参拝しているとされる写真を取り出し、「写っているのは絶対に私ではない」と否定した。つまり、彼女は中国に対する配慮ではなく、戦争に断固反対しているから軍国主義の象徴である靖国神社参拝に行くはずがない、と堂々と表明していた。
しかも、ネトウヨたちは水原が「日本人のふり」をしていると言っているが、彼女は「日本人のふり」などしていない。逆だ。水原は釈明動画の冒頭でまず自らのルーツを真正面からきちんと説明していた。
「私は現在日本で暮らしていますが、生まれはアメリカです。父がアメリカ人で、母は日本で生まれた韓国人です。2歳のときに日本にやってきて、神戸で育ちました。私は多様な文化を背景にもっていて、そのために異なる文化の人々に触れて互いを尊重することを学び、世界中に友だちをつくることができました。私は自分自身を地球市民だと思っています」
そのうえで、水原は動画をこんなセリフで締めくくった。
「私たちはみんな異なる文化を背景にもっています。でも、私は心から信じています。お互いがもっと理解しあうこと、そして愛と平和が私たちをつなげ、世界をよりよき場所にするだろうということを」
ようするに、水原は中国という国家に謝罪したわけではなく、偏狭なナショナリズムを超えた多様性への理解、平和主義を強く訴えていたのだ。天安門の写真を「非常に不適切」と言う必要はなかったと思うが、それ以外はむしろ真っ当な、いや、その年齢を考えたら立派すぎるスピーチだったと言っていいだろう。
だが、日本のネトウヨやネットニュースは彼女のこの真意をネグり、「中国に謝った」ことだけをクローズアップして、水原批判を繰り広げた。しかも最悪なのは、前述したように、そのほとんどが「水原は日本人じゃない」というグロテスクな差別意識をベースにしていたことだ。なかには「死ね朝鮮人」などという信じられない書き込みまであった。