ナミさんが監禁されていた団地の住民たちは、そんな子どもがいたことすら把握していなかったというが、教育委員会や学校は住民票を通してナミさんの存在を把握していた。そのため何度か家庭訪問が行われていた。
〈ナミさんは、学校の教員が自宅を何度も訪れていたことを知っていた。しかし、多くの場合は母親が居留守を使うか、玄関先で対応した〉
結局ナミさん本人の面談もできないまま、「障害がある」と通学を拒否する母親の言葉を信じ、それ以上は踏み込んだ対応はしなかった。これについて対応に関わった元教員はこう証言している。
「警察のように強制的な調査権があるのではないので、親御さんが入らないでくれと言ったらそれ以上は入れない。なので説得するしかないのです。でも説得してもダメだということになれば、そこであきらめざるを得ない。たとえば、こちらが虐待だと思って踏み込んで、もし違った場合、非常に問題になるわけですよね」
その後、ナミさんが中学2年生に相当する時期には学校と教育委員会、児童相談所、民生委員らで協議がもたれたが、虐待のリスクはないと判断され、ナミさんは自ら逃げて保護される18歳まで“発見”されることはなかった。
このように、消えた子どもはこの10年で少なくとも1039人が確認されているという。ナミさんのように虐待されて監禁されたり、逆に置き去りにされた子ども、保護者の経済状態が悪化し車上生活やホームレス生活を余儀なくされた子ども、そしてもうひとつが保護者の精神疾患だ。本書ではこう指摘されている。
〈子どもを虐待した親に何らかの精神的問題が見られる割合は五〇パーセントから七〇パーセント程度と高い傾向にあるという〉
もちろんそれだけが原因ではなく、貧困、孤立、子どもの障がいなどによる育てにくさなど、いくつかの複合的要因がこれに重なるという。
中学3年生の時、施設に保護されたマオさん(19)も、母親がうつ病で、そのため学校へ通えなくなった“消えた子ども”だった。