すると、古市氏は答えに窮したのか、「集団的自衛権に関しては、僕自身の意見はないというか、正直、よくわかんない」と学者とは思えない開き直りのセリフをはいたうえで、こんな理屈にならない理屈を語り始めた。
「ただ、実際に戦争が起こったときに、『国際協力はしたいんだけど、いま日本ではデモを超やってて、すっごい反対の声がある中で自衛隊を出しちゃったら政権潰れるんで出せません』みたいなことを言うのが、日本政府にとっては一番お得なんじゃないですかね。その意味で、今回のSEALDsのデモには意味があったんだろうなって思います」
「デモを理由に派兵を断れるから、お得」って、「自衛隊も血を流すべき」と明言したことある安倍政権がデモを理由に集団的自衛権の発動を拒否するはずがないのは、少し考えればわかりそうなものだが、しかし、これもまた、古市氏のいつものパターンだ。相手の主張に同意しているふりをしながら、本質とはかけ離れた論点を持ち出して議論をまぜかえす。現実的な政策判断の知識なんて何も持っていないくせに、やたら“損得”という判断基準を強調し、自分が“頭のいい現実主義者”であることをアピールする。しかも、メディアの世界の住人たちはこんなレトリックになぜかコロリとやられ、そういう見方もあったのか、などと納得してしまうのだ。
だが、奥田氏はちがっていた。逆に、この損得論についても、「『ワイドナショー』でも同じようなことを言っていましたよね。『安倍政権もSEALDsも、どっちも頑張れ。どっちも頑張ったほうがお得じゃないですか』って。『お得かあ……』って思いましたけど」と違和感を表明。
古市氏が「今の国際関係を考えると安倍政権の立場もわかるというか、両方、頑張れば結果的にお得な状況になるんじゃないかっていうことですね」と、ぬるい主張を繰り返すと、間髪入れず、こんなカウンターを見舞ったのだった。
「それって、いわゆる世間一般の若者像っていうか、ちょっと斜に構えて『いやぁ、どっちの言っていることもわかるんですけど』みたいな、メディアが取り扱いやすい意見なんじゃないですかね。ただ、そういう人たちばっかりになってしまうと、結局、古市さんが言う拮抗した状況にすらならない。僕は今、どっちもどっちのスタンスを取る人ばかりで、プレイヤーが少なすぎると思っていて。思ってるだけじゃだめだから、まず自分がやってるって感じですね」
ようするに、奥田氏は古市氏の「分析」が、実際には政府への白紙委任を意味する“どっちもどっち論”であること、そして、それがメディアに露出するための処世術にしかなっていないことを完全に見抜いたということだろう。古市氏の“芸風”について、本人に面と向かってここまで的確な指摘をするとは、奥田氏は社会運動のオーガナイザーとしてだけでなく、論客としてもかなりの能力の持ち主だといっていいだろう。