おそらく、今回も「一旦、選挙で選んだんだから文句を言うな」という橋下の主張に感化され、調子に乗ってこんなことを言い出したのだろう。
しかし、「ライト独裁」って、この男は独裁の怖さをまったくわかっていないらしい。番組中に池上も解説していたが、ナチスのヒトラーだって最初は選挙で選ばれたが、それからワイマール憲法の解釈改憲で誰も口出しのできない統帥となり、虐殺や弾圧にひた走った。一定期間であっても、為政者に全権を委任してしまったら、法律を好き勝手にされて、国民が一切の異論を言えないような体制がつくられてしまうのは目に見えている。独裁に「ライト」なんてありえないのだ。
しかも、「良かったら高い報酬を払う」とか、まるでマンガみたいなことを平気で口にするのだから、開いた口がふさがらない。
もっとも、これも小藪の特徴だ。「俺はわかってるよ、大人やから」みたいなトーンで語るため、何かもっともらしいことを言ってるように聞こえるが、実際の主張は幼稚かつ支離滅裂で、気がついたら、たんに強者の既得権益を守るものでしかなかったりする。
たとえば、以前、小籔は「夢は絶対に叶わへん」「やりたくないことをやるのが社会や」などと語り、「これが真実」「小籔の話は気持ちいい」と絶賛されたことがある。でも、当の小藪自身は夢だった芸人となり、その道で食っているのだ。ようは“自分たちはエエけどお前らはアカンよ”と言っているだけなのである。そんな発言をありがたがって「大人の意見」などと誉めそやしているのだから、おめでたいとしか言いようがない。
しかし、一方で、小藪のメンタリティというのは、いまの日本社会を覆っている空気を反映しているともいえる。知識や教養を鼻で笑い、実用性にのみ価値を求め、歴史の流れや客観性を軽んじ、世界を自分が理解したいようにしか理解しない反知性主義というやつだ。
そして、この空気は、政治という分野では、それこそ小籔の言う「ライト独裁」を求める行動と結びついている。民主主義的な手続きに「まどろっこっしい」と苛立ち、“改革”“危機管理”などというキャッチーな言葉に簡単に踊らされ、中身を検証しないまま飛びつく。そして、民主主義を口汚く罵るような扇情的な政治家の言葉に熱狂し、独裁者をつくりだしていく。