闘うこととは、相手も自分を傷つかないために“逃げる”こと。そして恐怖心に敏感であること、臆病であること。これらはとくにいまの時代だからこそ大切なのだと、東山は自身の人生哲学を語っていく。
さらに子どもの父親としての視点もこれに加わった。寛容さを失った社会でもっとも必要なもの。それが「優しさ」だ。たとえば、泣いている子どもを見かけたとき、東山は「ほら、お友達が泣いているよ」と自分のそばにいる子どもたちに声をかけるという。それがたとえ初めて会った子ども同士でもだ。
「どこの国の子どもだとか、親が誰だとか、何をしているとかは関係ない。
大人がそういう態度でいると、子どもたちは知らない相手であれ、「あのお友達、大丈夫かな?」と言い出すようになる」
まずは、大人が他者に対する思いやり、優しさの手本を示す。国籍や親の職業、取り巻く環境など関係ない。──これは子どもたちに対する東山の思いであり、彼が育ってきた環境、そして反差別に対する強烈な思いでもあるのだろう。
「人は人を差別するときの顔が最も醜いと僕は思っている」
本書ではほかにも、通名を名乗らざるを得ない在日コリアンへの思い、被爆者、沖縄など、一貫した反差別、弱者に対して寄り添う姿勢が随所に現れている。憎しみではなく優しさで世界と向き合おうとする東山の姿は、戦後70年、平和の意味を考える上でも手引きの書となるだろう。
なにより、ヘイトを叫び、隣人である韓国、中国を罵り、気に入らないとすぐに「在日認定」するようなネット民、そして差別を煽り「戦争への道」に突き進む安倍政権の面々にこそ、本書を読んでほしい。そうすれば、ほんとうの強さ、優しさとは何かが少しでも理解できるはずだ。
(伊勢崎馨)
最終更新:2015.08.15 08:29