ジーン・シャープが紹介する抵抗の方法はこれをもって終える。独裁体制を打倒した後の新しい社会のイメージは抽象的に過ぎて、これに基づいて自分たちの政府を運営するには無理がある。政権を打倒することと政権を運営することは異なった次元に属しているからだ。本書をマニュアルにした運動が独裁政権を退場させた後に、必ずしも安定した民主政権が生んだとは言えないことと無関係ではないだろう。
あるいは、ジーン・シャープはCIAの手先だとか、そこまで言わずとも米国の価値観を他国に押しつけているとの批判もある。ジーン・シャープの活動にそのような要素が否定できないとしても、ここにマニュアル化された事項の多くは歴史的に形成されてきた民衆の不服従/抵抗の手法と言える。躊躇せず使えるものは使えばいい。
あらゆる戦争は自衛の口実からはじまるとは、常に指摘されていることだ。どのような理由が提示されようと、国家のために死ぬ必要もないし、殺す必要もない。戦争を拒絶せよ。軍隊は一切いらない。軍事力がなくとも自由のために闘える。
侵略者と闘うことができるのはもちろんだ。そして、憲法を蹂躙し、国民を戦場に引きずり出そうとする独裁政権とも闘える。
わが左巻き書店には「暴力闘争」「暴力革命」の書物も本棚に多く用意してある。しかし今回はチェ・ゲバラ『ゲリラ戦争』(中公文庫)の次の言葉に従い、非暴力闘争マニュアル本を売りに出した。「政府が、不正があろうとなかろうと、なんらかの形の一般投票によって政権についている場合、または少なくとも表面上の合憲性を保持している場合には、ゲリラ活動には多大の困難が伴うだろう。非暴力闘争の可能性がまだあるからである」
だが。次回はそろそろ「暴力」本を用意しないといけないようだな。その季節が到来は遠くないかもしれない。
(左巻き書店店主・赤井歪)
最終更新:2015.07.17 08:08