「ダ・ヴィンチ」2015年7月号(KADOKAWA)
又吉直樹『火花』(文藝春秋)の勢いが止まらない。来月発表される芥川賞の候補作に、ノミネートされた。発売1週間で累計35万部に達した売り上げもその後も伸び続け、文学作品としては「村上春樹作品に次ぐ」ベストセラーになっている。
不況にあえぐ出版業界にとって又吉は救いの神らしく、各社ともこぞって原稿やインタビュー、対談をオファー。下へもおかぬ扱いで、芥川賞でも有力候補といわれている。
芸能界でも、最近は「芸人」というより「大物作家」という扱いが増えてきているが、本人はビートたけしのようにわざとバカなギャグを連発してイメージを相対化するわけでもなく、意外にうれしそうに状況を受け入れているように見える。
ところが、その又吉と対談しながら、いきなり「私、『火花』も読んでないし」「読んだ人に聞いてみたら、『ああいうものは好きじゃない』って」とかました人がいる。
発言の主は樹木希林。「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA)7月号で、又吉たっての希望で、対談が行われたのだが、そこはさすがの樹木希林。又吉に対し、遠慮なく樹木希林ワールドをぶつけるのであった。
まず、冒頭にあげたように『火花』をテーマにした特集号の対談なのに、いきなり『火花』を読んでいないという衝撃の展開だ。
樹木「それで今日はこうして又吉さんのすべてを取材するという企画に呼ばれたわけですけど、私、又吉さんについて何も知らないんですよ。『火花』も読んでないし。読んでないのに訊くのもどうかと思いますけど、どうなんですか、『火花』は」
又吉「そうですね。自分の中では面白いのが書けたって思ったんですけど、どうなんですかね」
樹木「私に聞かれても。読んだ人に聞いてみたら、その人は『ああいう系統のものは、私はあんまり好きじゃないです』って。そういう人もいますよね。そうじゃなきゃ面白くない。日本中が又吉さんファンじゃつまらないでしょ」