こうした脳の変化をもたらす依存について、インターネット環境でプレイするオンラインゲーム(いわゆるネトゲ)によるものだけでなく、冒頭に挙げたスマホアプリによるものも作者は危惧している。
「このタイプのゲームは、従来型のゲームに比べて画面が単純で、あまり凝っておらず、内容もおとなしく、キャラクターの可愛さやパズル的な楽しみ、他のユーザーとの交流などに重きが置かれる。その手軽さから、これまであまりゲームをしなかったような層、女性や大人にも広がっている。電車で移動中や寝る前などの隙間時間に利用する人が増えている。
しかし、ヒマ潰しのための利用は、意外に依存の入口ともなってしまう。レベルアップしたり、アイテムを手に入れたりという仕組みや、コミュニケーションが楽しめるソーシャルな要素は本格的なオンラインゲームと共通しており、手のあいたときに手軽にやれるというアクセシビリティの高さが依存性を高めやすい。依存性という点では、必ずしも楽観できない」
あまりにも身近すぎるために、手も出しやすく、そのため依存が広がるのではというのである。しかもスマホアプリだけでなく単純なスマホ依存も危険視している。
「動画やメールに夢中になり、暇さえあれば、スマホの画面を視続けるということも多い。いつもスマホが手元にないと不安だという人や、絶えず癖のように触っていないと落ち着かないという人が増えている。こうしたスマホ依存のケースでも、過剰使用が続くと、依存症になってしまう」
本書にはスマホアプリ依存の事例も掲載されている。作者のところに母親から連れられてきた少年のケースだ。高校1年生の男子生徒が学校に行かなくなったのだという。「朝になっても起きようとせず、起こそうとすると、頭が痛いと言って抵抗する。無理に起こそうとすると、大暴れする事もある。勉強はまったくやらない。親も学校も先生もみんな嫌いだという。そのくせ、母親には小さい子供のようにくっつきたがり、くっついていると安心しているようだ。だが、学校の話をしたりすると、急に顔が険悪になり、暴言をまき散らし始める」というからなかなか深刻だ。
少年が異変を見せ始めたのは親がスマホを買い与えてからだった。請求情報から、息子が課金型のスマホアプリにハマっていることも分かっていた。本人曰く「『クラッシュ・オブ・クラン』というゲームが、ものすごく面白くて、やめられなくなった」というのである。基本的には村を大きくしていくゲームだが、他のプレイヤーらから、自分の村を略奪されるのを防ぎ、時には別の村を略奪して自分の村を反映させていく。
「すべては時間との戦いだ。自分の村を強くしようと思えば、略奪を受けない間に防御を固めなければいけない。それにはタイムリミットがある。大工小屋を建て、道具や武器を作り、資源を手に入れ、兵を増やし、防壁を強化していく。それには、膨大な時間がかかる。その上、少しでも怠っていると略奪を受け、折角蓄えたお金や資源を奪われてしまう。プレイを休んでいる間にも略奪は行われるので、目が離せず、サバイバルするためにも、やり続けるしかない」