オンラインゲームの仕組みは「脳のハイジャック」。自分からゲームにハマるのではなく、依存性を知り尽くした作り手によって練り上げられた仕掛けに屈するようにゲームに没頭する。シリコンバレーに拠点を置くゲーム会社CEOの言葉が露骨だ。
「見えないところでシステムをいじって、ユーザーを惹きつけておくことができる。ぼくらは、負けが目立たないような環境、そして定期的にユーザーをやる気にさせるような環境をデザインする。そのあと、その環境に手を加えて、もっともユーザーを長くプレイさせる罰と励ましのコンビネーションを突き止めるんだ」
フェイスブック、オンラインポルノ、危険ドラッグ、スターバックスのフラペチーノ……依存症を引っ張り上げるビジネスは、依存へと引きずりこむ方法を常に更新していく。シュールなのは、この依存症を脱するためのリバビリ施設や病院もまた、「依存症ビジネス」のひとつとして莫大な利益をあげ、中毒的ビジネスを展開しているということ。アメリカでは、アルコールや薬物などのリハビリ産業が約90億ドルの推定価値を叩き出しているが、その規模を更に大きくしようとするヘルスケア企業の各社は、「“リハビリ”という単語が検索エンジンに入力されたときに検索結果の上位に自社の名前が来るように、巨額を入札して競いあっている」という。依存症を打破させるための組織もまた、依存症にとらわれているのだ。
19歳の少年は、自分の映像の再生回数に自分の興奮を司られていた。テレビ局に行けば、玄関付近には○○という番組が○○%の視聴率を取ったと騒ぎ立てているし、こういったWebサイトでもPV数やランキングが常に注視される。数値を稼ぐものに突き進む働きかけが止まらない中で、昨今、メンタリストを名乗る面々が人心掌握術を披露して人気を博している。私たちは、依存症の中にいることを諦めたかのようにも思える。
この本を読むと、YouTubeもテレビもオンラインゲームもポルノもドラッグもフード業界も、同じ方法、つまり、依存体制を更新し続けて、人間の感性を蝕んでいることがわかる。どの媒体も「そんなあなたは異常ではないんですよ」と声をかけることを絶対に忘れない。19歳の少年に対する同情など微塵もないが、彼自身は「社会との関係が希薄な人物」でもないし、逆に「こんなおとなしい子が…」でもない。お決まりのパターンで事件が処理されていく一方で、欲望をかき立てられる装置はすくすくと育ち、或いは改良に改良を重ねて、ますます依存から抜け出せない装置に化けていく。著者が「史上最悪のビジネスモデル」と呼ぶ「依存症ビジネス」は、もはやそれぞれの中に忍び込んでいるのだ。
(武田砂鉄)
最終更新:2017.12.09 05:09