「イスラム国」がこれまでの武装過激派組織と際立って違うのは、次の3点だと国枝氏はいう。
(1)「国」を名乗り、領土を主張し、行政を敷いていること
(2)インターネット上で効果的にメッセージを発信していること
(3)欧米人を含む外国人の参加が多いこと
とくに(1)は重要だ。「イスラム国」の目的は明確すぎるほど明確で、イスラム教の預言者ムハマンドの「代理人」を意味する「カリフ」を頂点とするイスラム国家をつくることだ。1922年のオスマントルコ帝国の崩壊でなくなったカリフ制を再興し、聖典コーランやムハマンドの教えを厳格に守る国を目指している。
そのため、イスラム過激派の“先輩”にあたるアルカイダのように、アメリカと闘うといったバカで無駄なことはいっさいしない。アメリカのような遠くにある国を攻撃しても、カリフ制国家建設には何の役にも立たないと考えるからだ。その代わり、国家の基盤となる「領土」の獲得には熱心だ。こんな武装集団は過去にはなかった。
例えば、「イスラム国」が“急成長”したのはシリアの内戦に介入してからだった。シリアのアサド政権に対抗する反政府組織が入り乱れる状況につけ込んで権益を拡大した。群雄割拠する反政府組織の目的は文字通り、“反政府”つまりアサド政権の打倒にあった。これに対して、「イスラム国」(その時々によって名称が変化するが、本稿ではわかりやすいように「イスラム国」で統一する)は内戦で荒廃した土地を支配下に置くことを主たる目的に戦った。
こうして獲得した「領土」には行政を敷き、恭順する住民にはさまざまなソーシャルサービスさえ施し始めた。
上級幹部は前出の最高指導者で「カリフ」を名乗るアル・バグダディを含めて12人。バグダディの下に「シリア担当」と「イラク担当」の最高統括官がいて、その下に各大臣、さらにその下に準幹部が25人程度いる。その3分の1がイラク人だ。行政経験のあるサダム・フセイン体制下のバース党員が重用されているという情報もある。
幹部はそれぞれ県知事のような形で支配地域に配置され、その下にまた各担当者が置かれている。税金を徴収するが、アサド政権よりも公正かつ税額も少なめで領収書も発行するので、街の商人には歓迎されているという報道もある。道路を補修し、家を失った人のために食料配給所を設置し、電力の供給も開始した。かつてアフガニスタンを支配していたタリバンは偏執狂的な傾向があってワクチン投与には懐疑的だったが、「イスラム国」はポリオワクチンの接種も推進している。
それだけではない。「建国」以来、米ドルのほか、シリアでは「シリア・ポンド」、イラクでは「イラク・ディナール」が使われていたが、昨年11月から独自の通貨発行まで始めた。単位は、金貨が「ディナール」、銀貨が「ディルハム」、銅貨が「ファルス」とアラブ世界ではよく使われる単位となっている。驚くべきことである。