■作家エージェント・コルクの台頭と文学賞の権威失墜■
Z いや、でもどうかな。コルクのやってることって、ビールのCMでローラに『宇宙兄弟』読ませたり、作家にタイアップ小説書かせたり、ってそんな新しいことかな。それこそ80年代からある手垢のついた手法って感じがするけど。コルクと所属作家はそれなりに儲かるかもしれないけど、新しい出版の形とか、新しい表現を生み出すとか、そういうことにつながるとは思えない。
Y でも、作家からしたら収入の道をつくってくれるわけだから、ありがたい話だよ。出版社なんて基本ほったらかしだからね。本を売ることさえそんなに熱心じゃない。営業熱心な作家に対して出版社がよく不満を言ってるけど、自分が書店営業に付いていかされるのがめんどくさいとかそういうことでしょ。大手は、担当した作品が売れようが売れまいが高収入は保証されてるから、売れないってことに対する危機感が作家に比べて薄いんじゃないかな。
X でも、こういう話をきいていると、つくづく昔ながらの文壇は崩壊したというのを実感するね。新自由主義じゃないけどとにかく「売れることが第一」という状況になっていて。
Y 昔だったら、大御所作家や重鎮の手前、デビュー10年にも満たない作家がここまでやりたい放題するってあり得なかったよね。
Z 序列も崩壊した。百田だって、直木賞選考委員の林真理子にあそこまで言われたらもっとヤバいってなってもおかしくなかったと思うんだけど。
X 文学賞が機能しなくなってるのも大きいよね。もはや、芥川賞・直木賞以外の文学賞を受賞しても、売上げにはなんの関係もないし、芥川賞・直木賞ですら昔ほどは売れなくなっているからね。本屋大賞には完全に負けている。
Y 有川だって直木賞のことを意識していたら、文春とはかんたんに決裂しなかったんじゃないかな。
X 百田は山周賞も、吉川英治新人賞もノミネートを辞退してるけど、直木賞のノミネートは受けるかな。このまえ「週刊文春」で連載が始まったけど、「週刊文春」の連載がまとまって直木賞にノミネートっていうのはよくあるパターン。
Z そういう意味じゃ、文学賞で今、唯一機能しているのは本屋大賞。百田、湊は本屋大賞の受賞者で、有川もノミネート常連だったというのは、ちょっと象徴的な感じがするね。本屋大賞が文壇に新自由主義をもたらし崩壊させたという。
Y でも、その本屋大賞だって、かつてはダブルミリオンも出してたけど、今年の本屋大賞の『村上海賊の娘』は上下巻合わせてミリオンがやっとだったわけだし。出版社の上の連中はわけもわからず「デジタル化」とか叫んでるけど、問題はそういうことじゃない。紙だろうが、デジタルだろうが、小説というコンテンツが読者から見放されつつある気がする。今もかなり苦しいけど、そのうち完全にビジネスとして成立しなくなる時代がくるんじゃ……。
X 年の瀬にそんな恐ろしいこと言わないでよ。
(敬称略)
最終更新:2014.12.31 12:35