90〜95年という阪神の暗黒時代の顔である中村“スカタン”勝広監督に、ファンはこう言い放った。
「中村ぁぁーっ、言うこと聞いてくれやーっ 監督はオレやーっ、お前を交代するーっ、家で寝とけーっ」
まさかの「監督はオレ」宣言。しかも、「審判交代、交代じゃーっ!」と審判にさえヤジを投げつけるのがトラキチ流。「審判はみな巨人から金をもらってて巨人の味方や」と思っているからだ。
また、07年に引退したアンディ・シーツが空振りに終わると、球場には「こぉぅらぁぁ−、シーツーッ! 干すぞーっ!」「敷いてまうどーっ!」「たたむぞーっ!」「めくったろかーっ!」と、示し合わせたかのようなヤジが口々に飛んだという。このほかにも「布にもどすぞーっ」「のりつけて洗濯するどーっ」とさまざまなバリエーションがあるが、もう何をどうしたいのかさっぱりわからない。
このようにカオスと化した阪神ファンのヤジのなかでもとくに印象的なのは、99年、ある試合で広島にボコボコに打たれていたときのヤジだ。この年、阪神は開幕戦だけは首位に立ったものの最下位に転落するというお決まりコースを辿っていた。そして、誰かがこう叫んだ。
「おれはやるときはやるでーっ! おれーっ!」
ヤジなのになぜか自分を励ましている。この不思議な声明ヤジを受けて、また別な人がこう叫んだという。
「よっしゃーっ、おまえーっ! やるときはやれーっ!」
感動的なレスポンスだ。なんと涙ぐましいシーンだろう。だが、試合とはまったく関係ない。阪神ファンはこうして頭を混乱させながら、負けを克服してきたのだ。
終始このような状態なのだから、臨終のときも「巨人をつぶせー、いてもうてくれー」と病床で訴える。さらに、あるトラキチのおばあちゃんは、敬老会の集会で「どのように死にたいか」と聞かれて、こう答えたという。
「甲子園の日本シリーズで、金本のサヨナラホームランで日本一になると同時に興奮で心臓をとめたい」
まさに阪神とは人生そのもの。この返答に会場には拍手が巻き起こったという。……って、拍手することなのだろうか。
ともかく、これまで不安と混乱にさらされてきたトラキチたちにとっては、29年振りの日本一となるかどうか、大いに期待したいところ。でも、たとえ日本一を逃しても、トラキチは納得するだろう。
「弱い阪神のことやから、なんか助けたらなあかん、と思うねん」
トラキチというものは、いいところで負けてしまう阪神のことも、心から愛しているのだ。
(サニーうどん)
最終更新:2018.10.18 05:23