ところで福本氏は、何故こんなにもハゲに執着するのだろうか。本書によると、元通商担当の欧州委員で現在は世界貿易機関(WTO)の事務局長を務めるパスカル・ラミー氏と出会ったことがきっかけだったという。ラミー氏は福本氏が「ハゲている男の人って素敵だったんだ」と思った最初の人で、ダボス会議で見かけた時のことを、「手には、テイクアウトのコーヒー。そしてハンチング帽がキマっていた。髪の毛がないから余計に決まっていた」と興奮気味に振り返っている。
さらに、本著では和歌山県在住の弁護士・藤井幹雄氏と、日本銀行元理事・堀井昭成氏の“イケてるハゲ”2人にインタビューを敢行。メガネ、ネクタイ、ストール、帽子など福本氏が考えるハゲに似合うファッション指南まで語られている。
ここまでくると、「ただ単に福本氏が “ハゲフェチ”なだけなのでは?」と疑いたくなってしまうが、そこはさすがに毎日新聞論説委員。ハゲをしっかり社会問題に接続するあたりが、ジャーナリストたる所以だ。本書にはこう綴られている。
「失われていく髪の毛を数えないで、自分が持っているもの、自分にしかないものに目を向けたら、外見上も内面的にも、もっと魅力的になれるはず、と強く信じている。(中略)むしろ乏しさを強みに変える――。そう、日本の企業や経済全般にも言えないだろうか」
つまり、「ハゲを強みに変える=丸坊主のお洒落ハゲになる」という発想は、日本の企業や経済にも適応できるということである。さらに、「高齢化や人口減少も同じ」だと福本氏は主張している。
「今までの発想で、年金や医療にかかる費用と財源のことを考えたら、確かに暗くなりそう。でも、高齢化は全く新しい技術や市場を生む起爆剤や刺激にだってなる。せっかく日本が高齢化で世界の最先端を走っているのだから、それを強みに使わない手はない。この市場で成功すれば、これから高齢化社会の仲間入りをしてくる世界中の国々に、先端モデルをどんどん売り込んでいけるのである」
ハゲを考えることが社会問題を考えることに繋がるとは、ハゲの奥深さにつくづく感心させられるばかりだ。
ところで私がハゲの成功者として第一に思い付くのがソフトバンクの孫正義社長だが、孫社長は髪の後退を指摘する、あるTwitterユーザーのコメントに、「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」と返したことがある。
今、日本に必要なのはハゲを後退ではなく前進と捉え直すクールな発想の転換なのかもしれない。小倉さんもカツラを脱いで、スキンヘッドにしてみたらどうでしょう。
(宮崎智之)
最終更新:2018.10.18 03:42