【ブラックディズニーその1】
■ホスピタリティ・マインドがブラックの隠れみのに!?■
(『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』より)
ディズニーのホスピタリティ・マインドとは、キャスト一人ひとりが「ゲストに楽しんでいただきたい、幸せになっていただきたい」と思い、さらに主体的な行動をプラスすること。困っているゲストを見れば、キャストのほうから「何か、お困りですか」と一声かけるといった姿勢だ。
キャストのホスピタリティ・マインドが奇跡を起こしたケースとして著者の福島氏はこんなエピソードを語る。
「ある日、ホーンテッドマンションに来られた女性ゲストが『館内でコンタクトレンズを落とした』とキャストに告げられたのです。(中略)『閉園後に探してみて、結果は、後日お知らせします』ということで女性の了解を得ました」
閉園後、そのことをキャストに話すと「一緒に探しましょう」と20人くらいのキャストが残り、みんなでコンタクトレンズを捜すことに。しかし、1時間後、夜の清掃担当者への引継ぎの時間になっても見つからない。福島氏があきらめようとすると、あるキャストが「もう一度探しましょうよ」と言い出し、清掃担当者も含めた夜の大捜索が始まり、その結果、なんとコンタクトレンズが発見されたのだという。福島氏はこの経験についてこう書いている。
「1人のゲストのことを思いやって自ら進んで協力を申し出、力を合わせたキャストのあったかいハートが奇跡を起こしました」
「私の職場のキャストだけでなく、ほかの職場のキャストまで手伝ってくれる。私は『すごい(素晴らしい)ところで、自分は仕事をしてるんだな』と感激させられてしまいました」。
いやいや。ちょっと冷静になっていただきたい。これは人命救助とかとかじゃなくてただのコンタクトレンズ探しである。どう考えても深夜11時過ぎにアルバイトたちを大量動員して(当然、自由意志での行動だから時給を払わず)、みんなで取り組み、感動をわかちあうようなものじゃないだろう。
だが、問題はなぜ、キャストたちが率先して、コンタクトレンズを探そうとしたか、だ。ホスピタリティ・マインドは会社内、職場内にもあることが望ましいとされるために、ディズニーのキャスト内では一体感、結束力を重視し、同調圧力が高くなっている。キャスト一人の提案に対して断りにくいどころか、過剰にエスカレートしかねないのだ。
そう考えると、ディズニーは「やりがい搾取」の典型といえるだろう。「やりがい搾取」とは、いろいろな仕掛けでやりがいを錯覚させることで従業員を低賃金で働かせ、搾取するというもの。『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』(本田由紀/双風舎/2008年)によると、その仕掛けには「趣味性」「ゲーム性」「奉仕性」「サークル性、カルト性」といった要素があるのだが、今回のケースは「奉仕性」にあたる。「顧客を思いやる心」や「顧客と誠実に関わろうとする姿勢」が良質なサービスの提供に欠かせないと重視する企業風土では、従業員の精力や時間の大半を費やしてしまいかねないのだ。