『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)
「国民が心をひとつにして“強い日本”をつくろう」「中国や韓国の脅威に対抗するには、国民が一丸にならないと」
近ごろ、こうした意見を耳にすることが増えてきた。政治家からメディア、小説家、SNSでも、とにかく「国民がひとつにまとまる」ことをやたら強調して、中国・韓国に少しでも友好的な態度とろうものなら、「反日」「売国奴」と口汚く罵って異分子扱いする──。そんな風潮がどんどん広がりを見せている。
しかし、国民が一丸となると、一体どんなことになってしまうのか。きょうは終戦記念日だが、まさに69年前の戦争のなかにこそ答えはある。そこで今回は、早川タダノリ氏の労作『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)から、国民総動員で戦争に邁進した大日本帝国下の姿をあぶり出してみよう。
当時の暮らしを知るのに手っ取り早いのは、何といっても雑誌。とくに婦人向け雑誌には、世相を反映した生活の知恵が書かれている。そう思ったのもつかの間、たとえば『主婦之友』昭和19年10月号に掲載されている記事は、「航空機を家庭で作れ!」。……え? 紙ですか? それともプラモデル?と聞き返したくなるが、文字通り、この記事は家でつくれといっているのである。飛行機を!
「飛行機一台に約三千の部分品がいる。……その部分品のうちには、家庭でも作れるものが約半数はある。このやうに家庭でできるものの製作までも、工場だけにまかせてゐてよいだらうか」
いや、そこは任せようよと誰もつっこまないのが戦時下の恐ろしさだが、いわずもがな、家で飛行機がつくれるわけがない。実際、この記事は航空機部品をつくる家庭工場の紹介という“「内職」の延長”話でしかないのだが、「撃て。敵を撃て。(中略)今こそ全女性は一丸となつて、敵に当らう」と壮大にアジっている。
誌面では「今日は衣料も兵器です」と喧伝し、“服を新調するくらいならその人手や資材を兵器にまわせ”と読者に迫る婦人雑誌。「決戦型ブラウス」「必殺防空寝巻」など、いま人気の軍事アニメでもお目にかかれない奇抜なファッションが紹介されているが、それをオシャレとして着こなすことは到底無理な話である。
しかし、『主婦之友』は、さらなるむちゃぶりをご婦人にふっかけている。昭和19年12月号の表紙には「アメリカ人をぶち殺せ!」と物騒な文字が躍っているが、中身では「寝た間も忘るな米鬼必殺!」「一人十殺米鬼を屠れ!」と血走った標語が並ぶ。日本に住むご婦人が1人につき10人のアメリカ人を屠れって、それはどうやって……。