70年代以降、各国で大きな広がりを見せたいわゆる「精神世界」は、次々と挫折していった政治運動のオルタナティブという側面もあった。各自の精神内面を見つめることで個人が変革し、それが大きなうねりとなれば世界の変革に繋がる……といった考え方だ。それはごく一部において「カルト」や「テロリズム」という負の側面ももたらしはした。とはいえ本来、スピリチュアルとは脱(反)近代であり、「今ある世界は変わるはずだ」という思想に裏打ちされているはずである。それが、こと自己啓発・成功哲学寄りになると、とたんにその矛先が鈍ってしまう。とても科学的とは言えない主張を繰り返しているのに「これは宗教ではない」とことさらアピールするのも、宗教=現行社会への否定、となるのを恐れているからではないか。
『世の中は変えられないが、自分だけなら変えられる。社会を変えるのではなく、今ある枠組み内での成功、自分だけの一人勝ちを目指そう』
意地悪な言い方だが、多くの「スピリチュアル系・自己啓発本」は、突き詰めればこのような考えに行きつかざるを得ない。
真の意味で「自己啓発」をもたらす書籍を目指すなら、脱(反)近代というスピリチュアルの出自を認め、その路線で邁進していくべきだ、と私は思う。「宗教」「政治」と見なされるのを恐れず、いやむしろ広い意味での 「宗教」であり「政治」であると堂々主張する本を出すべきだ、と。ただの現状追認ではない、新たな視点と価値観をもたらしてくれる「スピリチュアル系・自己啓発本」が出てきてもよいのでは、と期待している。
(吉田悠軌)
最終更新:2014.09.16 08:02