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殺した相手に「白い靴下」を履かせる連続殺人犯の“歪んだ性”

 著者によれば「彼の思考、行動の特徴を整理していくと、広汎性発達障害の一種、アスペルガー障害をもつことが歴然として来ました」という。アスペルガー障害を検討する際にはふたつの柱の有無と程度に注目するというが「言外の意を汲み取り、相手の感情を推し量ったり、自分の感情を伝えたりすることが苦手」といった“対人関係の質的な障害”と「あることに関心を持ち、熱中すると、そのことへのこだわりを示す」といった“限定的な関心や行動”があるが、これが前上にもみられたとある。

 そんな前上が白い靴下に激しい執着を覚えるようになったルーツは父親にあった。前上の父親は関西地方の白バイ隊に所属し、表彰されるほど活躍するなど仕事人としては立派であったが、一方で、仕事帰りに酒を飲み深夜に帰宅、休日も昼間から酒を飲んでは寝るような日々を送っていた。前上は父親とのふれあいのない寂しさを“お父ちゃんは悪い人を捕まえるために一生懸命働いているんだ!”と言い聞かせていたという。

 幼稚園の年長のころ「郵便配達員のかぶる白いヘルメットを見ると激しく『興奮する』(本人の表現)ように」なった。毎日のようにバイクを心待ちにし、幼稚園が休みの日には郵便配達員のあとを1時間も追い続けた。この白いヘルメットへのこだわりを著者は“父親を思う抑圧された気持ちが代理を求め、彼にとっての父親を象徴する白いヘルメットに向かった”と分析し、またそのこだわりぶりについてはアスペルガー障害が関係していると指摘している。

 白いヘルメットへのこだわりは小学生になると家族が履く白い足袋に、そして中学一年生の頃に白いスクールソックスへと変化する。そしてなぜ窒息行為の際に白い靴下を履かせていたかについての、まさにこの事件の核心については、これまた父親から幼少期に受けた恐怖体験が関係しているというのだ。

 前上が小学校4年生の頃、朝から酒を飲み始めようとした父親が、突然立ち上がったかと思うと前上のほうへ向かってきて両手で突き倒し、仰向け状態のお腹の上にしゃがみ込んだ。このとき「お父ちゃん、苦しいよ〜」いう前上の声は父親には全く届いておらず、「このまま死ぬのではないか」と覚悟した。母親が諌めてその場はおさまったがこうした行為は前上が覚えているだけで計3回あったようだ。またこうした行為を受ける直前に前上は、江戸川乱歩の小説を読んで「麻酔をかがされて失神するというシーンを読み、さし絵を見て同じような気持ちになりました」と、白い靴下を見たときと同様の興奮を覚えている。これを著者は「『父親から受けた息を吸えなくなる恐怖体験』が、『少年探偵シリーズの中の口ふさぎの挿絵への興奮』へと連結してしまった可能性が考えられます」としている。その後小学生の高学年以降、100件以上におよぶ「口ふさぎ事件」を起こした。

 前上が犯行時、被害者に白い靴下を履かせる行為は、深くは白バイ隊だった父親に対しての誇りだけではない複雑な思いや、父親から受けた窒息行為と密接に結びついていたのである。冒頭に挙げたいくつかの大量窃盗事件を起こした男たちも、そのモノを収集すること自体になんらかの性的興奮を覚えているようだが、本人たちを分析すると、前上のように、フェティシズムになんらかの体験が関係していることもあるのではないだろうか。
(高橋ユキ)

最終更新:2016.08.05 06:47

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