実際、日本はこの母性神話の強制力がとてつもなく強い国だ。日本では、離婚した際に8割以上のケースで母親が親権を持つといわれているが、現実には、母親が元夫や親族から「子育ては母親が責任を負うべきもの」というプレッシャーをかけられて、しようがなく親権者になっているケースも多い。
たとえば、2010年に大阪で起きた幼児2人置き去り死亡事件でも、母親は当初、親や元夫に「私には育てられない」といっていたにもかかわらず、周りから「母親なのに」と説教をされて子どもを引き取ったことがわかっている。裁判所も同様で、親権訴訟になった場合は、よほどの事情がないかぎり母親に親権を認める傾向がある。
しかし、世界的に見れば、離婚後、両親のどちらかにしか親権がないという考え方がおかしいのだ。辻、中山夫妻が暮らしていたフランスをはじめほとんどの先進国では、離婚後も父母が共同で親権をもち、子どもを“監護”するという制度になっている。日本のように、親権をもった親がもう一方の親に子どもを会わせないなどということはありえない。
夫婦が子育てを等しく分担、共有し、等しく子どもに愛情を注ぐ。それが世界的な流れである。だが、安倍政権が打ち出した「3年育休」もそうだが、結局、この国は子育てを母親だけが負担するという価値観から抜け出せないでいる。その考え方が少子化を加速させ、シングルマザーの孤立や子どもの虐待を引き起こしていることに気がつかないのだろうか。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.12.07 07:41