警察庁HPより
安倍晋三・元首相が銃撃され死亡した事件の責任をとり、きのう25日、中村格・警察庁長官が辞任を発表。あわせて当日、警護・警備に当たっていた奈良県警のトップ・鬼塚友章本部長も辞職する意向だと表明した。
中村長官は「警護の在り方を抜本的に見直し、二度とこのような事態が起こることのないよう新たな体制で新たな警護を行うために人心一新を図る」などと語ったが、安倍元首相の警護をめぐっては、根本的な疑問が残っている。
警察庁がきのう25日公表した報告書では、6月25日に自民党の茂木敏充幹事長が同じ場所で街頭演説をおこなった際にトラブルがなかったことから安倍元首相の警護でも警官をわずかに増員しただけの警護計画を作成した点などを「明らかな不備」と指摘。このことが「後方警戒の空白を生じさせた」とした。
だが、今回の警察の警護問題はほんとうにただの「不備」なのか。じつは、安倍元首相の銃撃事件については、警察の安倍元首相や自民党への特別扱いが生んだものではないかという疑惑が根強くくすぶっている。
というのも、複数の報道によると、立憲民主党の泉健太代表が今年4月に同じ場所で演説を計画した際、奈良県警は「警備が難しい」と指摘し却下。立憲はこの場所での演説を断念しているからだ。泉代表は少し離れた場所で演説をおこなったというが、それに対しても奈良県警は車の上で演説することや車を防弾パネルで覆うこと、真後ろに警護員を待機させることなどを要望したという。
しかも、自民党以外の政党はこの場所での演説は危険があると判断していた。実際、日本維新の会は「ガードレールに囲まれ襲撃されても逃げにくい上、緊急時に使う車も近くに置けない」と判断し、少し離れた場所で演説を実施。日本共産党は6月11日に安倍元首相と同じ場所で演説をおこなったが、奈良市の許可を得た上でガードレールを一部動かし、エリア内で選挙カーを入れて演説をおこなったという(読売新聞7月21日付)。
野党には「警備が難しい」と指摘し、少し離れた場所でも車上での演説や後方警備を要望した奈良県警が、自民党の茂木幹事長、安倍元首相には、甘い後方警備のまま演説することを許可したという矛盾。普通なら、元首相の警護には野党幹部よりももっと慎重になるはずなのに、これはどういうことなのか。
その背景には、自民党や安倍元首相サイドの警察への働きかけ、あるいは警察の自主的な忖度があったのではないか、という疑惑が浮上している。
報道されているとおり、安倍元首相が街頭演説をおこなった場所は聴衆が集まりやすいとされるが、一方で安倍元首相の奈良入りが決定したのは前日の午後。突貫で警護計画が作成され、鬼塚本部長が警護計画を承認したのは銃撃当日の午前9時ごろだった。つまり、聴衆が集まる場所で街頭演説をおこないたいという自民党サイドの要望が優先され、危険性が無視されたのではないか。
さらに気になるのは、この誰の目にも杜撰な警護計画を承認した奈良県警の鬼塚本部長と安倍人脈の関係だ。
鬼塚本部長は、きのう25日の会見でも「個人的に敬愛する安倍元総理がお亡くなりになったとの知らせを受けて、はかりしれれない衝撃」と安倍氏への特別な感情を強調、警察官僚としての公平性を疑いたくなる発言をしていたが、「安倍官邸のアイヒマン」と呼ばれ、安倍元首相が国家安全保障局長に就けた北村滋氏の子飼いとして有名な人物だった。実際、鬼塚氏は「内閣情報調査室に勤務していたころに北村滋内閣情報官に見いだされた」と言われており、2020年8月には北村氏がトップを務める国家安全保障局の内閣参事官に就いていた。
そして、警察庁のトップ・中村格長官も周知のように、安倍応援団ジャーナリスト・山口敬之氏の逮捕を潰すなど、官邸の意を受けた恣意的な現場介入をおこない、その論功行賞でトップに上り詰めたといわれる人物だ。安倍元首相の演説が強行された背景に、この2人はかかわっていないのか。