自民・維新の改憲威力が目論む危険な改憲 コロナ対応失敗をすり替え緊急事態条項創設を主張
そして、この改憲シフトに追い詰められたのが、野党第一党である立憲民主党だ。ご存知のとおり、立憲の新代表となった泉健太は「批判ばかりではなく政策提案型」「護憲ではなく論憲」などと打ち出しているが、そのせいで憲法審査会を強引に開催しようとする自民・維新・国民民主党の標的となった。実際、自民党の茂木敏充幹事長は8日におこなわれた衆院代表質問で「(改憲議論に応じないのは)国会議員の責務、国会の役割を果たしたと言えるのか」と批判。維新の馬場氏も9日に「立民が(憲法審を)『やらない』ということであれば立憲主義の標榜はやめてほしい」などと発言した。
揃いも揃ってふざけるな、という話だろう。そもそも、与党・自民党こそコロナ禍に通常国会をさっさと閉じ、共闘野党が憲法53条の規定に基づいて臨時国会の召集を要求しても無視して平然と憲法違反を犯してきた「国会議員の責務、国会の役割」を放棄してきた当事者だ。その上、馬場氏の「憲法審査会をやらないなら立憲主義を標榜するな」というのはアホ丸出しでしかない。立憲主義というのは憲法に基づいて権力者による恣意的な権力の行使を制限しようというものであり、世論がまったく盛り上がってもいないのに改憲ありきで強引に憲法審査会を開催しようとする権力の行使にNOを叩きつけるのは当然の姿勢だからだ。
このように自民・維新の主張は筋違いにも程があるイチャモンでしかなかったのだが、さらに維新と国民民主党は憲法審査会の与党協議に参加するなど外堀を埋められ、泉代表が「提案型」を標榜する立憲は衆院憲法審査会の開催と自由討議の実施に応じてしまったのだ。
そして、こうして開催された16日の衆院憲法審査会は、改憲への「地獄」のはじまりを予感させる、恐ろしい展開になったのである。
というのも、この日の憲法審査会では、与党筆頭理事である自民の新藤元総務相は、緊急事態条項の創設や9条への自衛隊明記を示した自民の改憲案4項目を議論のたたき台として活用することを求め、「緊急事態条項は議員任期延長やオンライン国会など国会機能維持の論点を含む。国民の関心も高い」などと発言。政府のコロナ失策の戦犯でもある西村康稔・前経済再生担当相も「衆院議員の任期が迫るなか、緊急事態宣言の発出中に選挙をどのようにおこなえばいいのか私なりに思考をめぐらせていた。新たな感染症が発生したら、適正な選挙の実施が困難な場合があり得ることはコロナの経験から明らかだ」などと言い出した。
自民党改憲案の緊急事態条項は、大災害時には国会議員の任期を伸ばして選挙を先送りすることを可能にし、さらには法律と同じ効力を有する政令の制定権を内閣に与えるという独裁を可能にする危険なシロモノだ。それをコロナ対応で失敗を繰り返してきた西村氏を筆頭にした自民がコロナにかこつけて緊急事態条項の創設を憲法に盛り込もうもうと主張するとは、火事場泥棒以外のなにものでもない。
だが、これに対し、維新や公明のみならず、国民民主党の玉木代表も「緊急時に任期の特例を定める議論は速やかにおこなう必要がある。感染が抑えられているいまだからこそ、国家統治の基本的な在り方を静かな環境で議論していきたい」などと緊急事態条項の創設に同調したのだ。