地元政治家に渡された金はすべて新札、「安倍さんからじゃけえ」「二階さんから」と…
まず、疑念が高まっているのは、人件費だ。前述したように、今回の自民党の報告では、1億5000万円のうち約2600万円を人件費や事務所に使ったことになっている。
また、先日、河井夫妻が代表を務めていた2つの自民党支部の、2019年分の政治資金収支報告書と政党交付金使途等報告書の訂正分が公表されたが、そこでも、案里氏が代表を務める「自民党広島県参院選挙区第七支部」は人件費に2574万円を支出したと報告している。だが、〈県選管によると、人件費の記載には領収書が必要ないため、詳細は分からない〉(中国新聞デジタル24日付)。
しかも、克行氏の公判で運動員への買収費用がこの人件費のなかに含まれていることがうかがえる事実が明らかになった。2月におこなわれた公判で検察側が読み上げた会計担当者の供述調書によると、会計担当者は克行氏から指示を受けて党本部からの資金を管理するための専用口座を開設し、買収罪の対象とされた3人の陣営スタッフに支払われた計約220万円も、ここから引き出され振り込まれたという。そして、6月の東京地裁の判決では、この3人の陣営スタッフへの報酬を買収と認定している。
さらに大きな疑問は、地元政治家たちにばらまかれた買収資金の問題だ。河井夫妻が買収に使った現金は3000万円近くにのぼるが、裁判で克行氏は「全て手元にあった資金」「議員歳費を自宅の金庫に入れていた」と説明してきた。
だが、2019年分の資産補充報告書によると、河井夫妻には計5000万円近い借入金があったといい(中国新聞デジタル24日付)、さらに金を受け取った側は「全て新札」「帯封の付いた状態」と証言。このとき「安倍さんからじゃけえ」「二階さんから」と言われて金を手渡されたという証言も出ている。
いや、そればかりか、買収が「自民党公認」でおこなわれていたことを疑わせる証言も出ている。2月におこなわれた公判での前三原市長の天満祥典氏の証言によると、克行氏が広島市内のホテルにある鉄板焼店の個室で会食し、天満・前市長に現金100万円を渡した際、当時、自民党の組織運動本部長だった山口泰明衆院議員も同席。そのほか党の職員も居合わせていたというのである。
前述したように、もっとも重要なのは、なぜ安倍自民党は河井陣営に溝手陣営の10倍にものぼる選挙資金を提供したのか、という点だ。買収がおこなわれたこの選挙には、当時の安倍首相が地元の安倍事務所の秘書複数名を指南役として投入していたこともわかっており、さらには克行氏が広島県議サイドに金を渡したあと、安倍首相の秘書がこの県議を訪ねて案里氏への支援を求めていたことも判明している。
自民党は1億5000万円のうち約1億2400円は機関紙や政策チラシの作成・配布費に充てられたというが、そもそもこれほどの巨額を選挙活動にかけられるという状況自体が異常だとしか言いようがない。そして、安倍首相の秘書や自民党本部のかかわり方を見れば、この大規模選挙買収事件はやはり、かつて溝手氏が安倍氏を批判し「過去の人」と発言したこと私怨を抱いていた安倍前首相の意向を受け、自民党本部が主導したとしか考えられないのだ。