首相官邸HPより
世論調査では8割以上が延期・中止を求めているなか、菅義偉首相が東京五輪の強行開催だけではなく、観客を入れての開催を目論んでいる。本日31日付の読売新聞が一面トップでこう報じたからだ。
「五輪観戦に陰性証明 コロナ対策 1週間内取得条件 政府原案」
記事によると、政府が検討している東京五輪における新型コロナ対策の原案では〈一定の観客を入れる場合を想定〉し、観客に対して以下のような対応を求めるという。
〈観客全員に事前にPCR検査などを求め、入り口で観戦日の前1週間以内の陰性証明書を提示することを条件に入場を認める。ワクチンを接種した人は接種証明書があれば陰性証明書は求めない。検査費は自己負担で、政府は検査数は1日最大約40万件と試算しており、今後、検査態勢の拡充も図る。〉
観客全員に検査を受けさせて陰性証明書の提示を求める……!? これまで国民に対して「検査抑制論」を説き、いまだに検査が行き届いてもいないというのに、東京五輪に観客を入れるために手のひらを返すって、まったくふざけるな、という話だろう。
あらためて振り返るまでもなく、この国では昨年の第一波の際PCR検査数がまったく増えず、検査さえ受けられないまま自宅で重症化・死亡するケースが相次いだ。しかし、政府はPCR検査の拡充を求める声を無視し、実際に厚労省が昨年5月に「PCR検査で正確に判定できるのは陽性者が70%、陰性者は99%で、誤判定が出やすい」「陽性と誤判定された者が医療機関に殺到して医療崩壊の危険がある」などという内容の文書を作成し、それを持って政府中枢に説明に回っていたことも判明している。
さらに、コロナ担当の西村康稔・経済再生担当相も、昨年7月の国会で「無症状者で、じつはPCR検査も陰性と判断されても、そのなかには3割は本当はかかっている方おられるんで。偽陰性もあります。きょう陰性で安心しても今晩かかってしまうかもしれません。やるなら全員が毎日毎日受けなきゃいけないことになってしまいます」などと説明していた。
こうして国際的に見ても異常な「検査抑制論」に立ったこの国では、いまだに医療・介護従事者やエッセンシャルワーカーといった定期的な検査が必要な人たちへの検査も進んでいない。さらに五輪開催地の東京都では、学校で児童や生徒の感染が判明しても「濃厚接触者にあたらない」としてクラスや学校全体での検査を実施していない自治体もある。そもそも、東京都の検査数はもっとも数が多かった今年1月12日の数字でも1万8498件でしかない。
いま検査を徹底させるべきは、五輪の観客ではなく、市井で働く人びとや子どもたちのほうだ。それを、東京五輪に観客を入れて開催するために「検査抑制」の態度を一変させ、東京五輪のために「検査態勢の拡充を図る」などと言い出す──。いったい国民の命をなんだと思っているのか。