国谷裕子を降板させた『クロ現』への圧力とそっくりだった今回のケース
そもそも「私は怒ったこともありません」って、その答弁じたい怒りながら言っているのがマスク越しにもわかるし、問題のNHKのインタビューでも逆ギレしていたのは、誰の目にも明らかだった。クレーム事件が表沙汰になる前、放送直後から、菅首相のキレっぷりを見て、突っ込んだ有馬キャスターの処遇を心配する声が上がっていたほどだ。
「指示していない」などというのも、とうてい信じがたい話だ。というのも、菅首相は菅官房長官だった安倍政権時代、ニュース番組やワイドショーなどの放送をいちいちチェックしており、気にくわない報道やコメントがあれば、すぐさま上層部にクレームを入れることで圧力をかけてきた張本人だからだ。
代表的なのが、今回と同じNHKの『クローズアップ現代』国谷裕子降板事件だろう。
当時官房長官だった菅首相は、2014年7月にNHKの『クローズアップ現代』に出演した際、閣議決定されたばかりだった集団的自衛権の行使容認についてキャスターの国谷裕子氏が厳しい質問を繰り出し、放送終了後に菅官房長官は激怒。同行していた秘書官が「いったいどうなっているんだ」とクレームをつけたという。この菅氏の激怒をきっかけに、その後、政権側は『クロ現』のやらせ問題を隠れ蓑にして圧力を強め、最終的に国谷氏のキャスター降板まで追い詰めた。
『クロ現』に対する菅首相の怒りは相当なものだったといわれ、「FRIDAY」(講談社)は「安倍官邸がNHKを“土下座”させた一部始終」などと伝えたほどだったが、このとき「国谷さんが菅さんの発言をさえぎって『しかしですね』『本当にそうでしょうか』と食い下がったことが気にくわなかった」とNHK関係者が明かしていた(「FRIDAY」2014年7月25日号)。
今回もシチュエーションは国谷氏のケースとよく似ている。『NW9』の有馬キャスターは、国谷キャスターのような鋭さも、さまざまな角度から問いただす工夫もなかったが、とにかく食い下がっていた。
木で鼻をくくったような答えを繰り返すだけで、まともな説明をしない菅首相に対し、「この学術会議の問題については、いまの総合的・俯瞰的、そして未来的に考えていくっていうのが、どうもわからない、理解できないと国民は言っているわけですね。それについては、もう少しわかりやすい言葉で、総理自身、説明される必要があるんじゃないですか?」「多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」と繰り返していた。
おそらく、菅首相は一番追及されたくない日本学術会議の問題をこのようにしつこく繰り返し聞かれたことに腹をたて、秘書を通じて広報官にクレームを入れるよう命じたのではないか。