大外れの「K値」を「注目している」とオーソライズした吉村洋文知事の罪
いや、吉村府知事の「罪」は「大阪モデル」だけではない。それは「K値」の問題だ。
「K値」というのは感染の収束時期を予測する指標で、中野貴志・大阪大学教授が提唱しているものだが、現在の「第2波」についても「7月9日ごろにピークアウトする」(「週刊新潮」7月16日号/新潮社)などと予測。結果はご覧の通り、思い切り外しているわけだが、吉村府知事は5月14日の段階から〈「K値」は僕も注目してる〉〈阪大の中野教授の意見を府の専門家会議で聞く準備に入る〉などと言い出し、実際に6月12日には大阪府の専門家会議に中野教授と宮沢孝幸・京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授をオブザーバーとして参加させた。そして、この席で中野教授と宮沢准教授は「(緊急事態宣言の効果は)極めて限定的。経済を止める必要はない。止めても新型コロナは止まらない」「(感染の)収束は緊急事態宣言後の自粛によるものではないのは明白」と主張した。
こうした主張に対し、吉村府知事は仰々しく天を仰いでみせただけでなく、会議後の会見では“接触8割減”を提唱した西浦博・北海道大学教授の数理モデルについて、「国を挙げて批判的検証をしないと間違った方向に進むんじゃないか」と疑義を呈したのだ。
感染症の専門家でもない中野教授の「K値」は、「自粛に意味はない」という経済活動を最優先したい為政者にとってはおあつらえ向きの指標だ。そこにいち早く飛びつき、あたかもこの指標が正しいかのように喧伝した行為の責任は重い。吉村府知事は最近も「K値もズレてきてますから、K値がズレてきているということは、何らかの新たな発生源ができていると見るべきだと思っています」(17日放送フジテレビ『直撃LIVEグッディ!』)などと述べているが、この期に及んで「K値」などと言っている場合ではないだろう。
現に、大阪府は吉村府知事による「大阪モデル」の修正に次ぐ修正で、危機に対応できるのか不安視されている。現在、大阪府は重症者の病床を188床確保しているというが、26日時点での使用率は5.9%。「赤色」になる基準は「重症者の病床使用率が70%以上」であるため余裕があるように思えるが、大阪府医師会の茂松茂人会長が「このモデルではかなりひどい状況になってから点灯する」(毎日新聞23日付)と述べているように、そこから自粛要請をかけても焼け石に水、手遅れの状況に陥っている可能性が高いのだ。
しかも、このような状況下にありながら、吉村府知事は驚くべきことに「大阪都構想」の実現に邁進。21日には大阪維新の会の全体会議を開き、11月1日の住民投票に向けた運動方針を決定。8月から「賛成」を呼びかける街宣活動や集会などの広報活動をスタートさせるというのだ。
コロナ対応に全力を傾けるべき局面で「都構想」運動を開始する──。「大阪モデル」における「緊急事態」となる「赤色」基準のハードルを手遅れ並に高くしたのは、経済活動の優先もさることながら、この住民投票に向けた広報活動などに批判が集まらないようにするためではないのか。
「コロナ対応でリーダーシップを発揮」などと持ち上げてきたメディアは、いまこそ吉村府知事の対応を検証し、自分たちが無批判に担いできたことを反省すべきだ。
(編集部)
最終更新:2020.07.27 11:29