「菅直人が海水注入中断」デマを拡散したのは安倍首相、裁判所も事実ではないと認定
いかがだろうか。こうして両者を比べてみると、冒頭で「菅の原発事故対応のほうがはるかにまともだった」と指摘した理由がわかってもらえたはずだ。事故発生当初から不眠不休で動き、必死さゆえに混乱を招きながらも、一応は最悪の東日本壊滅という事態を回避した菅直人、一方、危機意識のないまままともな対策をやらず会食ざんまい、感染を広げたあげく、いきなり政治目的で効果が疑問視される場当たり対応を連発し、いまだ正確な感染者数すら把握できない状況を放置している安倍晋三。コロナ感染拡大のほうはまだこれからどうなるかわからないが、現時点でも、差は歴然だろう。
だが、国民の評価は残念ながら、この差をまったく反映していない。菅直人の原発事故対応については、当時はもちろん、いまも「悪夢」と批判し、「原発事故があそこまでひどくなったのは菅直人が元凶」などと考えている国民は少なくない。一方、コロナ対応がこんなに不誠実で失態続きでも、安倍内閣の支持率はたいして低下していない。
それは、安倍首相が菅直人になかった能力をひとつだけもっているからだろう。その能力とはメディアコントロールと情報操作の巧みさだ。
安倍首相がコロナ問題で2回しか会見を開いていないことを前述したが、これは確信犯的な作戦でもある。安倍首相はこれまでも、台風や洪水などの自然災害や、政権にマイナスな国際情勢、事件が起きると、とたんに国民の前に姿を見せなくなるということを繰り返してきた。そして、華やかな外交や自分の得点になる政策発表のときだけ、自分がしゃしゃり出て会見を開き、国民にアピールする。こういう狡猾なやり口で、安倍政権は支持低下を最大限におさえ、自分の失態を隠してきたのだ。
しかも、安倍首相は問題や不正が発覚すると、平気で問題をすり替え、責任を転嫁し、フェイクをふりまく。とくに得意なのが、野党や民主党政権、批判報道に責任転嫁するやり口だ。
実は、菅直人の原発事故対応が実体以上に激しい批判にさらされているのも、安倍首相が野党時代、安倍応援団メディアとともに撒き散らした責任転嫁のためのフェイクニュースの影響が大きい。
もともと原発事故は自民党政権の原発政策が最大の要因であり、なかでも、安倍首相は第一次政権で、福島第一原発の冷却機能喪失の危険性や予備電源の不備を指摘されながら、それを無視していた(記事リンクhttps://lite-ra.com/2020/03/post-5303.html)。
ところが、安倍首相はそうした責任論を封じ込めるために、原発事故後の5月20日、メルマガで「菅首相が3月12日、海水注入を中止するよう命令したため、作業が遅れ、被害が拡大した」と嘘の情報をメルマガに書き込んだ。そして、翌21日の読売新聞と産経新聞がこれを後追い。大々的に報道したのである。
しかし、菅は同日19時55分に逆に海水注入を指示しており「海水注入中断」は東電本店で指揮に当たっていた武黒一郎フェローが勝手に現場に伝えたものだった(また現場では19時4分にはすでに海水注入を開始しており、吉田所長の判断で本店からの中断指示を無視し注入を継続していた)。菅はこの安倍のメルマガが名誉毀損だとして損害賠償請求に民事訴訟を起こしている。判決では「野党の政権批判だから名誉毀損に当たらない」と損害賠償は認められなかったが、事実関係については、安倍の間違いだったことが認められ、安倍は裁判の途中で該当記事を削除している。
しかし、こうした裁判の認定を知っている国民はほとんどおらず、安倍のフェイクによって、菅直人こそ、原発事故の元凶だというイメージが完全に定着してしまった。そして、歴代自民党政権の原発政策の問題や第一次政権での安倍の直接責任はどこかへかき消されてしまったのである。
まさに卑劣と言うしかないが、しかし、こうした状況はすでに新型コロナ対応でも起きている。安倍政権は、初動対応の遅れと検査受けたくても受けられないという批判を封じ込めるために、内閣官房や厚労省がSNSで『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)などのメディアを名指しして、報道内容を否定。裏でも、メディアに「煽るな」圧力をかけ始めた。実際は、フェイクをふりまいているのは、メディアの側ではなく、政府機関のほうだったことも明らかになったが、しかし、この1週間で風向きはガラリと変わり、「検査は不要」「政府の方針は間違っていなかった」という論調がどんどん大きくなっている。このままいけば、いつのまにか「安倍首相はよくやった」などという話にする変わる可能性さえ出てきた。
菅直人は、震災・原発対応に一応のメドがついた2011年8月終わりに「(原発事故については)総理としての力不足、準備不足を痛感した」と振り返り、政府混乱の責任を一身に引き受けて9月はじめに退陣しているが、安倍首相のほうは東京五輪が来年に延期になってもまだ、「五輪をやり遂げるのが私の責任だ」などと言って、首相の座に座っているかもしれない。
(編集部)
最終更新:2020.03.15 05:32