昨年7月20日、秋葉原で応援演説をする安倍首相
「朝の7時くらいでした。マンションの玄関からノックする音が聞こえて。早朝だし、あれ? なんだろうと思ったんですが、寝ぼけてボーッとしながらドアを開けたら、黒服や作業服っぽい男たちが立っていた。見たことのある顔が何人かいて。ヘイトデモのカウンターの場所で見覚えのある、警察の人でした」
男性は、公安に突然逮捕された日のことをそう振り返る。この男性を、Mさんとしよう。今月9日、警視庁公安部は、Mさんをいわゆる「車庫飛ばし」という“微罪”で逮捕。そして一部マスコミが、公安発表をそのまま垂れ流すかたちで逮捕を実名報道した。
〈右派系市民団体のデモへの抗議を繰り返す「レイシストをしばき隊」、現在の「対レイシスト行動集団」のメンバーの男が、所有するワゴン車の登録地を偽って申請したとして警視庁に逮捕されました〉(TBS)
〈公安部によると、●●容疑者は、差別や憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」などに抗議する団体の中心人物。車は活動資材の運搬に使用していた〉(産経ニュース/注:記事は実名だがリテラ編集部で匿名にした)
警察は勾留の延長を求めたが、裁判所は証拠隠滅や逃亡の可能性がないとして却下。Mさんは11日に保釈された。本サイトで報じたように、公安がMさんを“微罪逮捕”した狙いは、差別主義者に対するカウンター行動と、12日に新宿で行われた大規模な反安倍政権デモ「Occupy Shinjuku 0112」への“弾圧”とみられている(https://lite-ra.com/2020/01/post-5205.html
)。
本サイトがMさんに取材を申し込むと、Mさんはカウンター行動やデモへの関わり方から、今回の逮捕、保釈にいたるまでの状況を克明に語ってくれた。Mさんの証言から明らかになったのは、「レイシストをしばき隊」やその後継団体「対レイシスト行動集団(C.R.A.C)」を狙い撃ちにし、団体や個人のプライバシー情報をかき集めるという公安の卑劣な手口だった。
「玄関で僕の名前を訊かれて、いきなり『車のことで令状があります』と。紙をパッと見せられ、何の令状かわかりませんでしたが、車庫飛ばしで捜査すると言われました。うすうす公安だと感づいていたので、『それって国土交通省とかじゃないんですか? そういうこと担当するんですか?』と聞いたんです。そしたら『これは電磁的公正証書原本不実記録・同供用の容疑で、ウチでも扱える』と、そこからもう有無を言わせない感じで。そうか、僕は逮捕されるのだな、と」(Mさん)
マンションに10人ほどの公安警察が入ってきた。携帯電話、もう使っていないスマートフォン、ノートパソコン、鍵束、免許証や保険証の類、キャッシュカードやクレジットカードなど、さらには仕事関係でもらった名刺の束まで押収された。公安は銀行の預金通帳も要求したという。「『決まったことに従ってください』という感じで。人の繋がりやお金の流れを探ってるんだと僕にもわかりました」とMさんは語る。
1時間半後、Mさんは警察のバンに乗せられ、車内で手錠をかけられた。管轄の署に着くと、した着まで脱がされて身体検査を受け、指紋採取や写真撮影が行われた。
「羞恥心というよりも、警察署に連れて行かれて、そこでいろいろ事態を飲み込んでいった感じですかね、従うしかないんだなと。3、4時間ほど刑事から取り調べを受けました。それが終わると、すぐに『これから本庁に移動します』と告げられて。ここで寝泊りするものだと思っていたので、ちょっと驚きました。それで、また車に乗せられて、エンジンがかかったとき、横に座っていた刑事が『報道きてますね』と言った。警察署の表のゲートのところは板で壁みたいになっていて、普通の人の背丈だと車内が見えないようになってるんですけど、その板の上から強いライトが光ってるのがわかった。それがTBSだったんでしょう。内心、警察がマスコミを呼んだんじゃないのかとは思いました。一応、顔は伏せておきましたが、車が壁の横から出るときに撮られたのだといまでは思います」(Mさん)