給食費未納バッシングを仕掛けたのは第一次安倍政権 背景に「親学」推進
さらに、この数日後には安倍首相の極右教育のブレーンである八木秀次・麗澤大学教授が理事長をつとめる「日本教育再生機構」も「教育再生会議」に提言をおこない、そこでも給食費未納に絡んで保護者の啓蒙を盛り込むよう求めている(産経新聞2007年4月21日付)。
そして、「教育再生会議」は「『親学』に関する緊急提言」をまとめ、「子守歌を聞かせ、母乳で育児」「授乳中はテレビをつけない」などという親学をもとにした提言とともに、〈給食費未納問題や朝食を食べずに登校する「食育の乱れ」も例に挙げ、無自覚と批判がある親を再教育する重要性を指摘〉(四国新聞など2017年5月10日付)した提言を発表する予定だったが、発表前にメディアがこの問題を取り上げたことによって批判が殺到。結果的に正式発表は見送られたが、見送りを決定した会議の席上でも安倍首相は「議論が物議を醸しているのは事実だが、もっと物議を醸していいのではないか」「いろんな偏見があったり、アレルギーがあったりするんだろう。アレルギーを持つのは間違っていると認識していけば、冷静な議論が出てくるのではないか」などと発言している(毎日新聞2007年5月11日付)。
ようするに、第一次安倍政権は給食費未納の問題を恣意的な調査によって「親のモラルの問題」にすり替えることで、子どもの貧困問題を矮小化。挙げ句、それを利用して「親学」を国をあげて推進することで、教育を個々の親・家庭の自己責任に押し付け、近代国家として当然の社会的ケアの責任を放棄しようとしたのだ。
安倍政権は生活保護バッシングを利用して生活保護の給付水準を引き下げるなどの政策を強行してきたが、じつは給食費未納問題も同様の構図だったのである。
本来、給食費未納が広がっている実態を受けて検討すべきなのは、子どもの貧困や少子化対策としての給食無償化だ。実際、同じように子どもの貧困や少子化問題を抱えている韓国は給食無償化を推進し、ソウル市では2021年からすべての小中高でオーガニック食材を用いた無償給食を実施するという。ソウルのパク・ウォンスン市長は、こう語っている。
「オーガニック学校無償給食が施行されれば、3万9000人の生徒が給食費の受給申請をしなくとも良くなる。受給者の烙印を捺されることが恥ずかしくて申請しない生徒もいたが、ご飯を食べる時にも差別を受けずに友達と付き合えるよう、私たち社会が努力しなければならない」
「生徒1人当り年間80万ウォン(約8万円)の給食費が節減され、家計負担もそれだけ減るだろう」(ハンギョレ新聞2018年10月29日付)
一方、安倍首相は給食無償化などの対策をとろうとはしない。安倍首相が議長をつとめる経済財政諮問会議では、2016年に民間議員が子育て支援の抜本強化策のひとつとして「給食費の無料化の検討」を提言しているが、その後、安倍首相が子育て支援として給食費無料化を打ち出したことはない。それどころか、消費増税と引き換えにした幼児教育・保育の無償化では、給食費を無償化の対象外にした。これで何が「無償化」なのか。
少子化や子どもの貧困問題から逃げているとしか思えない安倍首相の態度だが、それをアシストしているのが、給食費未納を「親のモラルの問題」などとバッシングを煽るメディアの存在だ。こんな体たらくでは、家庭を国家に奉仕する下請け化するような恐ろしい動きが再び息を吹き返すことになっても、何ら不思議はないだろう。
(編集部)
最終更新:2019.12.28 12:44