15歳シェルパの娘と「父親のOK」で結婚した野口健氏の行動は、ユニセフが根絶に取り組む「児童婚」そのもの
検証のため、あえて紙幅を割いて詳細を紹介しておこう。同書によれば、1995年2月、20代の大学生だった野口氏はメラ・ピーク挑戦のためネパールへ飛び、15人のシェルパを雇った。そして、そのサーダー(リーダー格)であるテンバーという男性の家で娘と出会った。
〈彼女は英語ができなかった。テンバーに聞くと名前はペンハー・ラム。年は15か16だと言う。父親のテンバーも娘の正確な年齢がわからない。「メイビー、フィフティーン、オア、シックスティーン。アイドンノー」といった調子なのだ。〉(『落ちこぼれて〜』)
ラムは父親に言われ、野口氏の身の回りの世話をした。〈それから毎晩のように、テンバーの家に通った〉という野口氏は、こう書いている。
〈僕は、ただただラムに会いたかった。一目惚れだった。何を話すわけではない。大体、ラムは英語を話せないので、会話というものが成立しない。僕は、ラムとは従兄弟にあたるデンディに通訳を頼んだが、ラムは外国人と話すのが恥ずかしいようだった。ただ目と目が合うだけで、僕はどきどきした。〉
〈彼女にずっとそばにいてほしい。ラムと一緒になりたい。
山頂アタックをかける前に、この気持ちをすっきりさせたいと思った。
ルクラを発って8日目の夜、僕はテンバーに言っていた。
「実は、ラムと結婚したいのです」〉
──どんな答えが返ってくるのだろうか。断られたらどうしようか。
僕はとても緊張していたのだが、テンバーの返事はあっけなかった。
「OK、OK」
それだけだった。僕の結婚はこうして決まった。〉
野口氏は何やら“純愛美談”のように振り返っているが、ちょっと待ってほしい。英語も話せない15歳か16歳のシェルパの娘と結婚したと言っても、コレ、どうみても本人の意思と関係なく父親が決めた結婚だろう。ユニセフは「児童婚」を〈18歳未満での結婚、またはそれに相当する状態にあること〉と定義しており、子どもの権利侵害として世界的な問題になっている。根絶に向け国際社会では様々な取り組みがなされている。
〈児童婚は、子どもの権利の侵害であり、子どもの成長発達に悪い影響を与えます。女の子は妊娠・出産による妊産婦死亡リスクが高まるほか、暴力、虐待、搾取の被害も受けやすいのです。また、学校を中途退学するリスクも高まります。〉(ユニセフHP)
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチの2016年の報告書によれば、ネパールでも、法律では結婚できるのは20歳からにもかかわらず、少女の37%、少年の約11%が18歳未満で結婚しているといい、ネパール政府は2030年までの児童婚根絶を掲げている。
言っておくが、20年以上前の出来事で現代と人権意識が違うというような話ではまったくない。野口氏が結婚した1990年代にはすでに「幼年結婚」は廃絶すべき悪しき慣習として世界各国で問題視されていた。野口氏のやったことはこの時点で「子どもの人権侵害」といわれても仕方がないだろう。