会長交代の前から始まっていたNHK締め付け復活、国谷裕子を追放した板野裕爾が専務理事に復帰
だが、前田新会長を発表したNHK経営委員会の石原進委員長(JR九州相談役)の会見では、上田会長について「評価が高かった」と言いながらも、退任にいたった原因についてこう語ったのだ。
「やはりガバナンスの問題とか、経費コストの見直しとか。問題があるんじゃないかという意見もあった」
「(ガバナンスの問題には)かんぽ問題も当然含まれる。私は大変な問題だったと思っている」
「大変な問題だった」って、大変な問題を起こしたのは石原委員長を筆頭とする経営委員会のほうなのだが、このようにすべての責任を上田会長に転嫁させ、官邸の意向を汲んだ新たな会長を選出することを成功させたのである。ちなみに石原氏は3期9年という異例の長期間にわたって経営委員を務めたが、10日に委員長を退任。これは任期満了にともなうもので、かんぽ問題は関係していないとされている。
経営委員会の番組介入という深刻な問題は不問に付され、安倍官邸が気に食わぬ会長の首をすげ替え、安倍首相に近い人物を新会長に据える──。この露骨な人事を見ると、NHKが籾井体制時のような萎縮しきった報道に戻ってしまうのではないかと危惧を抱かざるを得ないだろう。
実際、安倍官邸によるNHK監視体制の動きは強まっている。今年4月には板野裕爾・NHKエンタープライズ社長を専務理事に復帰させたが、板野氏は『クローズアップ現代』の国谷キャスターを降板させた張本人と言われる人物。2016年に刊行された『安倍政治と言論統制』(金曜日)では、板野氏の背後に官邸のある人物の存在があると指摘し、NHK幹部職員は〈板野のカウンターパートは杉田和博官房副長官〉〈ダイレクトに官邸からの指示が板野を通じて伝えられるようになっていった〉と証言をおこなっている。
さらに前述したように、報道現場では社会部が奮闘する一方で、報道局上層部や政治部が横槍を入れてきた。森友問題では近畿財務局が森友学園側と国有地の購入価格の上限を聞き出していたというスクープに対し、政治部出身で安倍官邸とも強いパイプを持つとされる小池英夫報道局長が「将来はないと思え」と恫喝したことを元NHK記者の相澤冬樹氏が告発。加計問題でも文科省の内部文書をスクープできたというのに、肝心の「官邸の最高レベルが言っている」などの部分を黒塗りにしてストレートニュース内で消化するという“忖度”報道をおこなったが、これも小池報道局長の指示によるものだと言われている。その一方、何かにつけて政治部の岩田明子記者を報道番組に投入し、安倍首相の礼賛を解説として垂れ流しているのだ。
そして、ここにきての安倍人脈の新会長選出──。「安倍4選」が取り沙汰されるなか、今後さらに官邸は直接的にNHKの報道に介入し、現場の萎縮はさらに進んでゆくことになるのは間違いないだろう。
(編集部)
最終更新:2022.08.04 01:46