政権の不当なイチャモンにも平謝り、現場に謝罪強要するテレビ朝日上層部
たとえ場面が飛んでいても、「今後の対応」という意味において繋がっているのだ。会見で質問する機会をなくしているのは事実なのだから、「問題を年越しさせようとしているかのように編集している」なる批判はまったく当たらない。
加えて言えば、世耕氏は〈脈絡の異なる話を無理に繋げて編集し、しかも後段は会見終了後の映像を使用している。酷い編集だ〉ともツイートしているが、バカも休み休み言え、という話だろう。会見後の発言をメディアが取り上げることは、何一つ問題などない。与党の有力政治家が公の場で発言したものには変わらないからだ。だいたい、会見中の発言しか報じることができないとしたら、そんなものは、権力者がガチガチに報道規制している独裁国家ぐらいのものだろう。
ようするに、あらためてVTRをしっかり確認すると、世耕氏のクレームは明らかに破綻しているのである。政権に都合の悪い報道をされたことに対する恫喝目的、報道に対する不当な圧力としか言いようがない。
本来なら、この程度のイチャモンは無視するのが報道機関として当然、むしろ、与党の有力政治家がTwitterで「印象操作だ」などと発信したことに対して、テレビ朝日として抗議してもいいくらいだ。ところが、冒頭で述べたように、『報ステ』はこの世耕氏のトンデモクレームに簡単に屈し、11日の放送で「お詫び」をしてしまった。あまりにも情けないではないか。
もっとも、これは現場の意思ではなく、ことを荒立てたくないテレ朝上層部の判断だろう。事実、世耕氏は11日の午後、こんなツイートを投稿していた。
〈先ほどテレビ朝日報道局長が幹事長室に来訪し、謝罪がありました。
①会見終了後の映像を使用したこと。
②文脈の異なる部分を繋いで編集したこと
が不適切で、今夜の番組内で何らかの対応をするとのことです。
放送内容を見て、謝罪を受け入れるか判断します。〉
つまり、テレ朝の報道全体を統括する報道局長が、直々に自民党の幹事長室を訪れ、謝罪しているのだ。しかも、ツイートによれば、この時点でテレ朝側は世耕氏側に「今夜の番組内で何らかの対応」を約束すらしている。『報ステ』が放送する前から「謝罪」するというのは、相当のことだ。早河洋会長を筆頭とするテレ朝上層部がいかに政権に骨抜きにされているかが、よくわかるというものだろう。
今回の『報ステ』だけではない。テレ朝では、政権やそれに近いところからクレームが入ると、すぐに平謝りしてしまうということが、このところ常態化している。
最近も『朝まで生テレビ!』で田原総一朗氏が、英語民間試験をめぐって“試験業者の1社であるベネッセから当時の文科相の下村博文議員に2千数百万円の献金があった”という趣旨の発言をしたことについて、放送後、番組ホームページで「ベネッセから下村議員へのそのような献金はありませんでした。訂正するとともにベネッセならびに下村議員、視聴者の皆様にお詫びいたします」と全面謝罪した。下村氏、ベネッセ双方から抗議を受けての訂正だというが、実際には下村の名前を番組内で先に出したのは、自民党の片山さつき参院議員か国際政治学者の三浦瑠麗氏であることがわかっている。
9月には、『羽鳥慎一モーニングショー』の “嫌韓本特集”をめぐり、その後、玉川徹氏が「ここ(モニター)に映っている本は、あくまで韓国に関する本とか、文在寅政権を批判する本でした」と言い、“嫌韓本ではなかった”として、「関係者のみなさま、視聴者のみなさまにお詫び」した。しかし、実際には、『モーニングショー』のモニターに映っていた8冊のうち、7冊は「あくまで韓国に関する本とか、文在寅政権を批判する本」などではなく、ことば巧みに韓国への悪感情を誘導するのはもちろん、なかには「ヘイト本」そのものも含まれていた。しかも、そうした「ヘイト本」の著者は安倍応援団文化人や極右ジャーナリストである(過去記事参照)。
本サイトで繰り返し伝えてきたように、テレ朝内部ではここ数年、安倍政権批判を抑え込もうという力が働いている。たとえば、昨年の『報ステ』チーフP交代や小川彩佳アナ追放、あるいは『報ステ』チーフ時代に政権の問題を追及してきたM氏が、今年の人事で、経済部長から報道とは無関係の「総合ビジネス局・イベント事業戦略担当部長」なるポストへ異動させられたのは、その象徴だろう。
現場がどれだけ気骨のある報道を望んでいても、政権からクレームが来れば、報道局長が慌ててすっ飛んで謝罪。番組として全面屈服の「お詫び」をやらされてしまう。明らかにトンデモな政治権力のクレームを跳ね返すどころか、上層部が丸呑みしているのだ。いったい、テレ朝はどこまで落ちていこうというのだろうか。
(編集部)
最終更新:2019.12.12 11:09