対立をエスカレートさせる安倍首相(首相官邸HP)
安倍政権の対韓国輸出規制に端を発した日韓政府の対立はどんどんエスカレート、その影響は民間レベルにも及んでいる。そんななかで、日本のマスコミに目立つのは、韓国における「反日」感情の高まりだけをやたら煽り、批判する報道だ。
たとえば、つい最近も日経新聞が「ソウルで数百人が反日集会 輸出規制強化に抗議」(27日ウェブ版)という見出しで記事を掲載。読売新聞も〈韓国では8月15日に日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」があり反日機運が盛り上がる〉(7月26日付)などと書き、産経新聞は社説の「主張」で〈韓国では日本に抗議するデモ、集会が開かれている。日本の公館や企業、邦人が反日テロの犠牲にならないよう、韓国政府はこれまでの対応を反省し、警備に万全を期す義務がある〉(29日付)と「反日テロ」が起きているかのような論調まで展開している。
しかし、こうした報道には明らかなフレームアップが含まれている。たとえば、日経など一部のメディアが「反日集会」「反日デモ」と報じた集会。これは7月27日、韓国・ソウルで開かれた「ろうそく集会」のことで、たしかに主催者発表で約5000人の市民が、安倍政権が実施した韓国への輸出規制に抗議していた。
だが、参加者が掲げたプラカードにあったのは、ハングルで「NO安倍」の文字。デモは“日本を攻撃する”=「反日」ではなく、安倍首相を糾弾するものだったのだ。
ソウル在住のジャーナリストで「コリアン・ポリティクス」編集長・徐台教氏によれば、集会の正式名称は「安倍糾弾 第2次キャンドル文化祭」。596の市民団体やNGOが主催したもので、南北の「民族宥和」の色彩が強いという。
徐氏は、北朝鮮問題における文在寅大統領の対話路線を踏まえながら、反文政権の韓国保守系野党との関係を念頭に、「安倍政権=韓国保守派=南北宥和の敵」という論理の介在を指摘する。安倍首相に対する韓国市民の感情として〈トランプ大統領の判断により18年5月末に史上初の米朝対話が「お流れ」になりかけた際、世界で唯一トランプ大統領を支持する立場を発表した点などから「日本政府は南北宥和を望んでいない」と受け止め、批判を強めている〉という分析だ(Yahoo!個人「韓国『安倍糾弾デモ』のメカニズム」7月29日)。
つまり、27日のろうそく集会には、輸出規制という安倍政権の暴挙に対する反発だけでなく、南北の平和を願う市民感情を邪魔しようとしている安倍政治への強い反感が背景にある。
それを「反日デモ」と呼んで、まるで韓国市民が日本市民全体への敵意を剥き出しにしたかのように報じる日本マスコミ。これは明らかにおかしいだろう。
たとえば、トランプ米大統領への市民の抗議は米国内だけでなく、世界各地で起きており、先日の訪英に際しては、イギリスで大規模なデモが行われたが、これが「反米デモ」とは呼ばれることはない(実際、日本のメディアも反トランプデモと報じていた)。
日本の安倍政権の政策に対する韓国市民の運動やデモ、抗議の動きを、日本のマスコミはなにからなにまで「反日」という言葉で表現してしまっているのである。
これはリベラル系の朝日新聞や毎日新聞も同様だ。「韓国内では反日感情が高まっている」「不買運動で民間レベルでも反日の動きが高まっている」などという言葉を平気で使っている。