『日本国紀』の近現代史は史実を歪めた「歴史修正主義」だらけ
さらに、この朝日新聞インタビューでは、唖然としたことがもうひとつある。それは、百田センセイが「『日本国紀』に対する批判」について、「私が最も力を入れた近現代史の部分については、批判はそんなにありません」と強弁していることだ。
昨年、同書の発売からまもなくして本サイト(https://lite-ra.com/2018/11/post-4381.html)でも指摘したが、同書は「近現代史」の部分こそ問題だらけなのだ。日本の帝国主義と侵略、戦争犯罪を否定ないしは美化し、歴史修正主義を全開にしている。
たとえば、日清戦争については〈日本が清と戦った一番大きな理由は、朝鮮を独立させるためだったのだ。朝鮮が清の属国である限り、近代化は難しかったからである〉と記し、韓国併合については〈日本は大韓帝国を近代化によって独り立ちさせようとし、そうなった暁には保護を解くつもりでいた〉〈韓国併合は武力を用いて行われたものでもなければ、大韓帝国政府の意向を無視して強引に行われたものでもない〉などとする。まるで日本が「善意」によって清の支配から「解放」し、朝鮮半島を「近代化」させてあげたかのような書きぶりだが、朝鮮での大きな抵抗運動が示すように、日本が不平等条約と併合を強要し植民地化したのが史実だ。
日本の中国侵略に関しても、いわゆる対華二十一カ条要求について〈一部の希望条件を除き、当時の国際情勢において、ごく普通の要求だった〉などと評価しているが、実際には要求を飲ませるために軍事圧力に出ながら最後通牒を行っている。また、張作霖爆殺事件については〈事件の首謀者は関東軍参謀といわれているが、これには諸説あって決定的な証拠は今もってない〉と書き、含みをもたせている。しかし、歴史学的には関東軍高級参謀の河本大作が首謀者であると定説が固まっており、極右界隈ががなり立てる「ソ連工作員犯行説」は陰謀論として否定されている。
関東大震災での朝鮮人虐殺や南京事件(南京虐殺、あるいは南京大虐殺)などについては、「人数」をクローズアップし、「(大)虐殺ではない」と結論づけて矮小化を図るという、歴史修正主義定番のレトリックも健在だ。
ちなみに、百田センセイは朝鮮人虐殺について、当時の司法省報告にある殺害された朝鮮人の人数「233人」(実際には起訴された事件の犠牲者数に過ぎないのだが)をあげつらい、〈流言飛語やデマが原因で日本人自警団が多数の朝鮮人を虐殺したといわれているが、この話には虚偽が含まれている〉などとして、決して「虐殺」の事実を認めない。