日米地位協定をめぐる日本政府・外務省の欺瞞
これら明らかな「主権」の欠落を、日本政府はどのように正当化してきたか。前述のとおり、国会の政府側答弁でも「一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されません」(2008年4月18日参院決算委員会、高村正彦外務相)との説明が繰り返されており、外務省HPにおける説明もこれを踏襲するものだった。
〈一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、日本に駐留する米軍についても同様です。このため、米軍の行為や、米軍という組織を構成する個々の米軍人や軍属の公務執行中の行為には日本の法律は原則として適用されませんが、これは日米地位協定がそのように規定しているからではなく、国際法の原則によるものです。〉(“修正前”の文言)
読んでのとおり、外国軍(在日米軍)の“特権”が日米地位協定に起因するのではなく、あくまで国際法の一般原則であると強弁してきたわけだ。
ところが、この政府側が根拠とする「国際法」には、実のところ、そんな規定などないことがすでに明らかになっている。
たとえば日弁連による意見書(「日米地位協定に関する意見書」2014年)では、〈外国軍隊を受入国の国内法令の適用から免除する一般国際法の規則は存在しない〉〈領域主権の原則からして、米軍等に対しても日本法令の適用があるのが原則であって、その適用の制限はその旨の地位協定等の条約・合意及び日本法令の規定が存在する場合に,その限りで認められるものであり、しかもその例外は限定的に解釈されるべきものである〉と指摘されている。
さらに、米国の連邦諮問委員会のひとつである国際安全保障諮問委員会の報告書(「日米地位協定(SOFA)に関する報告」2015年)でも、〈一般的には、その国が自国の裁判権についてある種の制限を設けることに同意していない限り、その国にいる人はその国の法律が適用されることが国際法上のルールであることが認められている〉とはっきり記されている。同報告はこう続く。
〈地位協定は、受入国の政府が、この協定を締結することによって派遣国のために、特定の裁判権及び別途受入国が保有するその他の権利を放棄することに同意しているという理由から、両当事者の合意に則った前述の国際法上の規則の例外を規定している。〉
すなわち、日本政府のいうように「在日米軍に日本国の法令が適用されない」のは「一般国際法」の原則から導きだされるのではなく、むしろ真逆で、他ならぬ日米地位協定に依存した「例外」の規定であって、しかもそれを米国側が認識しているのである。