天皇・皇后は外国人労働者が働く現場に何度も足を運んできた
昨年9月の私的旅行で天皇・皇后は、7世紀に朝鮮半島から移り住んだ高句麗の王族が祀られている埼玉県日高市の高麗神社を訪問、参拝した。報道によれば、天皇は熱心に視察し「高句麗は何年に滅びたのですか」などと宮司に尋ねたという。今上天皇は、2001年の誕生日に際した会見でも、日韓共催のサッカーW杯に絡めて、「韓国から移住した人々や、招へいされた人々によって、様々な文化や技術が伝えられました」と述べ、わざわざ宮内庁楽部の楽師のなかに朝鮮半島からの移住者の子孫がいることに触れたうえで、「こうした文化や技術が、日本の人々の熱意と韓国の人々の友好的態度によって日本にもたらされたことは、幸いなことだったと思います」と好意的に語っている。
また、天皇・皇后は外国人労働者が働く現場を何度も訪ねるなど、常に日本で暮らす外国人のことを気にかけてきた。たとえば2008年には、ブラジル人など日系南米人が多く住む群馬県大泉町と太田市を訪問、派遣労働者として働く日系外国人の人々に「どんな苦労がありましたか」などと質問し、激励している。2013年には東京都板橋区の介護老人福祉施設を訪ね、皇后がフィリピン人職員たちに「日本に来てくれてありがとう」「日本は寒いですよね。体に気をつけてください」と感謝と慰労の言葉をかけた。また、昨年のベトナム訪問に際しても、天皇は「現在我が国には、約18万人のベトナム人が留学生、技能実習生などとして滞在しています」と紹介したうえで「この度の私どもの訪問が、両国国民の相互理解と友好の絆を更に強める一助となることを心から願っています」と語っている。
皇后は、2014年にも難民支援や地雷対策活動を展開する国際NGO「難民を助ける会」のチャリティコンサートを鑑賞するなど、難民問題への関心も強い。
いずれにしても、安倍政権が“現代の奴隷制度”と批判される外国人労働者の環境改善をおざなりにし、経済界の要請にしたがって、入管法改正案をゴリ押しするのとは対象的だ。
天皇・皇后の発言や行動からうかがえるのは、外国人と日本人の双方が理解のため努力し、互いの生活や価値観を尊重するという“人間として対等なかたち”だろう。こうして振り返ってみも、今回の私的旅行での外国人学習支援センター訪問は、やはり、安倍政権が放り投げている来日・在日外国人へのケアの必要性を強く滲ませる、ふたりの“メッセージ”であったように思えてならないのである。
もちろんそれは、外国からの労働者を迎える側の国民にも向けられている。今回の入管法改正案をめぐっては、外国人労働者の劣悪な就労環境や人権侵害を懸念し、その改善を求める声とは違う文脈で、右派からは「事実上の移民政策」として「日本の国柄が変わってしまう」なる批判が盛り上がっているが、前述したように、こうした排外主義と結びつく言説こそ、天皇と皇后がもっとも憂慮している問題のひとつだからである。
ふたりが「天皇と皇后」として発言する時間はあとわずかだ。12月には今上天皇が「平成最後の誕生日会見」にのぞむ。注目したい。
(編集部)
最終更新:2018.11.30 12:34