自分は社員に残業代払わず、経営セミナーで「残業代払え」と力説する二枚舌社長
会社は、これだけ仕事をしろと言っているのだから、それなりの残業代は支払っているのだろうと思いきや、「指示した仕事は、全て所定労働時間で終わる仕事なので、残りの時間は自主的な研修とでも言いましょうか……だから残業ではない」とのことで、未払の残業代など1円たりとも発生してないとのことであった。これを労働基準監督署にも説明しているのだから筋金入りである。
一方で、社長が主催する経営セミナーでは、「労働者に対し、残業代を支払わないという経営はあり得ない」と力説しているから素晴らしい。つまり、完全に二枚舌であり、俗に言う確信犯である。対外的にはあり得ない経営として紹介していることを、自らの会社では、平然と実行しているのである。
訴訟では、会社に弁護士がついたが、さすがに「人の3倍働け!」、「週120時間働け!」と指示したとは言えなかったのだろう。「それくらいの気概をもって取り組んでほしいという叱咤激励」に過ぎないと苦しい説明に追われていた。そして、①毎週、感想文の提出や試験を課されていた研修は、「本人が自主的にやっていたことだから、労働時間ではない。」と主張し、②業務日誌に記載されている始業・就業の時間は労働時間ではなく(記載を求めていなかったので知らない。でも訂正もしていない。)、③残業代についても、職能手当という手当が残業代だから未払いはない(でも、就業規則には、「職能に対する対価として支給する」と書いてある。)、と主張した。
裁判所も、会社の主張を採用する様子は見られず、弁護士と同行していた会社担当者に、質問を浴びせていた。例えば以下のとおりである(不正確な点も多いと思われるがご容赦いただきたい。)。
裁判所 日誌に書かれている時間が勤務時間ではないとすると、会社は何をもとに労働時間を把握していたの?
担当者 ……
裁判所 原告さんの仕事はどんな内容?
担当者 会議以外はすべて研修・勉強ですので……
裁判所 勉強っていっても指示しているんでしょ。
担当者 予定時間内で終わるものですから……
裁判所 かかる時間に個人差があるでしょ
担当者 一般的には終わりますから……
実質2回目の期日からは、残業代をいくら支払うのかという方向で話が進んでいった。詳しい内容は公表できないが、それなりの水準で和解した。S氏は、退職後もコンサル業界に身を置いているようであるが、元気にしているだろうか。一方で、会社はHPを見る限り、現存している。次なる犠牲者がでないことを祈るばかりである。
【関連条文】
法定労働時間→労働基準法32条
残業代→労働基準法37条
過労死ライン→平成13年12月12日付基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達
(上田裕/つきのみや法律事務所 http://www.tsukinomiya-law.jp)
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp
長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.23 01:08