とある業界紙を発行する従業員100名弱の新聞社が今回の舞台。この新聞社では、長年ワンマン社長による暴言や理不尽な業務命令が横行していた。
「君たちはゴミを作っている」「整理部の人間はバカだ。居る資格がない」などという人格否定の暴言は日常茶飯事。時には労働者のみぞおちを殴る暴行も。労働時間管理なし、三六協定(時間外・休日労働に関する労使協定)なし、残業代なしのブラック企業あるある3点セットのもと長時間労働が横行する職場で労働者は疲弊し切っていた。
しかし、そんな横暴な社長に対し2人の記者が立ち上がった。1人は「言うことを聞かないから手当カット」と月10万円以上の給与減額を通告されたうえ、自宅待機を命じられた記者。もう1人も降格・給与減額のうえに解雇を予告された記者。2人は新聞業界では強い影響力を持つ新聞通信合同ユニオン(1人でも入れる社外の労働組合)の門を叩いた。2人はユニオンに加盟して職場内に支部をつくった。
組合は未払い残業代の支払い、賃金減額・自宅待機の撤回、パワハラの防止など、団体交渉で労働条件の改善を求めた。組合の粘り強い交渉の結果、会社の顧問弁護士による社長への説得もあり、賃金減額と自宅待機は撤回されることとなった。また、社長のパワハラも一時的に鳴りを潜めた。
ただ、未払い残業代について会社は「職責手当で残業代は賄われている」との主張を崩さず、支払いに応じなかった。この会社の主張は、いわゆる「固定残業代制」というもので、残業代不払いのブラック企業が用いる典型的な言い分であるが、そのほとんどは違法だ。
そこで組合から依頼を受け、私が代理人となって2人分の未払残業代を求める裁判を2016年11月に起こした。
裁判では、PCのログイン・ログアウトの履歴、日記、会議のメモ、休日出勤届けなどの膨大な証拠で残業の実態を明らかにした。裁判記録は20センチ近い厚さとなった。